運転業務と健康管理

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

今回は、営業車での外回り、お客様の送迎、荷物の配送など、多くの職場で発生する【運転業務と健康管理】についてお話しします。

「運転中の急な体調不良」は、ドライバー本人の命の危険はもちろんのこと、歩行者や他の車両を巻き込む重大な悲劇に直結します。これは運送業だけでなく、社用車を1台でも持つすべての事業者が真剣に向き合うべき重要なリスク管理(安全配慮義務)のテーマです。

1. 「健康起因事故」は運送業だけの問題ではない

職場の業務中に発生する死亡災害(労働災害)のうち、2割以上を「交通労働災害」が占めています。さらに驚くべきことに、その交通労働災害の「6割以上」は、運輸交通業以外の一般的な事業所で起きているのです。

国が報告事案を分析したデータによると、健康状態が原因で発生した運転事故(健康起因事故)の多くは、「脳血管疾患」や「心臓疾患」によって引き起こされています。特に死亡例においては、心筋梗塞などの心臓疾患が大きな割合を占めています。 運転席で突然意識を失ってしまえば、本人の意思で事故を回避することは不可能です。日頃の健康診断で血圧や心電図の異常を放置しないことが、いかに重要であるかが分かります。

2. 運転に支障をきたす病気と「SAS」の落とし穴

道路交通法では、自動車の運転に支障を及ぼすおそれのある病気として、「脳・心疾患」「てんかん」「無自覚性の低血糖症」「認知症」「アルコール依存症」などが挙げられています。

そして、産業保健の視点で特に見落とされやすいのが、「重度の眠気を呈する睡眠障害」、つまり睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。 日中の耐えがたい強烈な眠気は、一瞬の居眠り運転を引き起こす最大の原因になります。以前のコラムでもご紹介した通り、ご家族から「いびきがひどい」「睡眠中に息が止まっている」と指摘されたことがある方は、絶対に放置せず、運転業務をこなすためにも一度専門医の検査を受けることを強くお勧めします。

3. 事業所がやるべき「4つの健康管理」とアルコール対策

国土交通省が定めている「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」は、運送業だけでなく、一般の社用車を管理する企業にとっても非常に役立つガイドラインです。以下の4つのステップを社内のルールに組み込みましょう。

  • ① 健康状態の把握: 定期健康診断の結果を確実に回収し、再検査の受診勧奨を行う。必要に応じて自己申告や産業医の意見を求める。
  • ② 乗務前の点呼: 発熱、疲労、眠気、風邪薬などの服薬状況を確認する。「胸の痛み」「手足のしびれ」「ろれつが回らない」といった脳・心疾患の前兆があれば、絶対に乗務させず受診させる。
  • ③ 乗務中の異常時対応: 体調が悪化した際は、「無理して戻らず、安全な場所に車を停めて管理者に報告する」というルールと連絡体制を徹底する。
  • ④ 就業上の措置: 産業医の意見を踏まえ、運転業務の短縮や配置転換を検討する。

ここで最も重要な実務のポイントは、「過剰な就業制限をかけない」ことです。「持病があるから」と一方的に運転業務から外すことは、不当に労働機会を奪うことになりかねません。本人に丁寧に説明し、主治医や産業医の医学的意見をしっかり聴いた上で、安全と雇用のバランスを取った慎重な判断が求められます。

4. 忘れてはいけないアルコールと労働時間の管理

安全運転の土台として、法令遵守の仕組みづくりも欠かせません。

一定台数以上の白ナンバー車を使用する事業所では「安全運転管理者」の選任が義務付けられており、2023年12月からは「運転前後のアルコール検知器を用いたチェックと記録の1年保存」が完全義務化されています。 また、2024年4月からは運送業等の時間外労働の上限規制(いわゆる2024年問題)も適用されており、疲労による事故を防ぐための厳格な労働時間管理が求められる時代になっています。

おわりに

従業員に運転業務を命じる以上、事業者は「健康で安全に運転できる状態を担保する」という重い安全配慮義務を負っています。

「この社員の血圧の数値で、長距離の運転をさせても大丈夫だろうか」「最近、日中の居眠りが多い社員がいて、運転させるのが怖い」。 そんな不安や迷いが生じた際は、企業内だけで抱え込まず、ぜひお気軽に産業医や保健師にご相談ください。医学的な視点から、大切な従業員の命と会社の信用を守るための安全な就業判定をサポートいたします。

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