メンタル不調のサインと声のかけ方

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

厚生労働省の調査によると、働く人の8割以上が「仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じている」と回答しています。 同僚や部下の様子が「最近いつもと違う」「なんだか心配だな」と気づいたとき、力になりたいと思う一方で、「どう声をかければいいのだろう」「プライベートなことに踏み込んでいいのだろうか」と対応に迷う方は多いのではないでしょうか。

今回は、職場のメンタルヘルスケアにおける【周囲の気づきと声かけの第一歩】について整理します。

1. 過去最多を更新する「メンタル不調の労災」

仕事による強いストレスが原因で発症した精神障害の労災認定件数は年々増加し続け、2024年度には初めて1,000件を超え、過去最多を記録しました。その原因として最も多いのが「パワーハラスメント」です。

こうしたデータが示す通り、メンタルヘルスの不調は、決して「メンタルが弱い特定の人」だけの問題ではなく、誰の職場で起きてもおかしくない身近な経営課題です。だからこそ、手遅れになる前に周囲がいち早く気づき、適切な対応をとることが組織全体に求められています。

2. 気を付けたい「いつもと違う」のサイン

不調のサインは、日々の業務の中でさまざまな形となって現れます。ポイントは「病気かどうか」を探るのではなく、「普段のその人と比べて『いつもと違う』点があるか」に気づくことです。

  • 外見・表情の変化:笑顔が減った、表情が暗い、以前より身だしなみ(服装や髪型)が乱れている。
  • 体調面の変化:「頭痛がする」「めまいがする」「食欲がない」「夜よく眠れない」といった身体的な不調の訴えが増えた。
  • 言動の変化:口数が減って一人でいることが増えた、離席が多い、落ち着きがない、あるいは急に怒りっぽくなった。
  • 業務面(勤怠)の変化:遅刻・早退・突発的な欠勤が増えた、普段しないようなミスが増えた、残業が不自然に増えている。

こうした「いつもと違う」変化が数日〜数週間続くようであれば、それは本人が発しているSOSのサインかもしれません。

3. 声のかけ方と、魔法の言葉「事例性」

普段と違う様子に気づいたら、積極的に声をかけ、まずは話を聴いてみましょう。 このとき絶対に避けていただきたいのが、「批判や否定をすること」や、「頑張れ」「気の持ちようだよ」といった安易な励ましをすることです。これらはかえって本人を深く追い詰めてしまいます。まずは「本人の辛い気持ちをそのまま受け止める」姿勢を見せるだけで、相手はずいぶん楽になります。

そして、相談を受けた際、管理職や同僚が最も陥りやすい落とし穴が「これはうつ病ではないか?」と自分で判断しようとしてしまうことです。 ここでぜひ知っておいていただきたいのが、「疾病性(しっぺいせい)」と「事例性(じれいせい)」という考え方です。

  • 疾病性:病名や医学的な症状のこと。これは医師(専門家)が判断し、扱う領域です。
  • 事例性:「遅刻が増えた」「ミスが増えた」「周囲とトラブルを起こす」といった、業務上で実際に起きている困りごとの事実です。

職場が目を向けるべきは、圧倒的に後者の「事例性」です。 「Aさんはうつ病かもしれない」と病名を推測して一人で抱え込むのではなく、「最近、今までになかったミスが続いていて、集中できていない様子だ。何か業務で困っているのかな」と客観的な事例性で捉えるようにしてください。

すると、「仕事で負担になっていることがあるみたいだし、体調も少し心配だから、一度会社の産業医と面談してみない?」と、病名を決めつけることなく、本人も納得しやすい形で自然に専門家へ受診を勧めることができるようになります。

おわりに

「なんだか様子がおかしいな」と気づいて声をかけた後は、現場だけで抱え込まないことが何より肝心です。

産業医や保健師、あるいは人事労務の担当者と連携し、「気づく・聴く・つなぐ」という3つのステップを意識するだけで、職場の安全性は大きく向上します。 次回は、この「つなぐ」ための仕組みを組織としてどう整えていくべきか、さらに詳しく取り上げます。

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