職場の災害対策"その後の健康"まで守るために

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

地震や台風などの自然災害、そして事業所内で起こる事故や火災。災害への備えは、BCP(事業継続計画)の観点からも、従業員の命と健康を守る観点からも、企業にとって欠かせない取り組みです。 今回は、【職場の災害対策のポイント】を整理します。

1. 見過ごせない「災害関連死」というリスク

災害対策というと、「建物の倒壊からどう身を守るか(直接の被害)」に意識が向きがちです。しかし、本当に恐ろしいのは、災害の「その後」にあります。

避難生活の肉体的・精神的な負担や、持病の悪化などによって後から命を落とす「災害関連死」が、近年大きな問題となっています。 記憶に新しい2024年の能登半島地震では、災害関連死の認定数が直接死の数を大きく上回りました(2026年現在で関連死は500人を超え、直接死の2倍以上となっています)。死因は、肺炎などの呼吸器疾患や、心不全などの循環器疾患が多くを占めています。

つまり、災害対策は「発生の瞬間」を乗り切るだけでは不十分であり、「その後の健康管理」こそが命を分けるのです。ここに、企業や産業保健スタッフが関わる大きな意義があります。

2. 時間とともに変わる「3つの健康リスク」

災害後の健康リスクは、フェーズ(段階)によって移り変わります。

  • ① 発生直後: 外傷や熱傷への救急対応、衛生環境の悪化による感染症の予防が最優先されます。
  • ② 避難・復旧期: エコノミークラス症候群(長時間同じ姿勢でいることや脱水による血栓症)、水分・栄養不足からの肺炎、強いストレスによる高血圧・心疾患の悪化に警戒が必要です。
  • ③ こころの反応: 災害後の不安、不眠、集中力の低下などは「誰にでも起こる正常な反応」です。多くは時間とともに回復しますが、症状が強く長引く場合は、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病を防ぐためにも、早めの相談・受診に繋げることが重要です。

3. 「平時」に整えておくべき4つの備え

いざという時に動けるかどうかは、平時の準備で9割が決まります。

  • 危機管理体制の構築: 防災計画・マニュアルの作成、産業保健スタッフを含めた役割分担の明確化、地域のハザードマップや避難所の確認を行います。
  • 教育・訓練の実施: 避難訓練はもちろん、AEDや消火器の位置の確認、応急救護の研修を定期的に実施します。
  • 備蓄品の確保: 食料・水・救急用品・感染対策物品(最低3日分が目安)に加え、オフィスにとどまる「帰宅困難者」を想定した簡易トイレ・充電器・アルミブランケット等の寝具を準備します。
  • 配慮が必要な従業員の把握: 持病のある方(透析やインスリン治療が必要な方など)、妊産婦、障害のある方、外国人労働者など。プライバシーに十分配慮しつつ、いざという時の支援方針をBCP等に明記しておくことが命綱になります。

4. 忘れてはならない「支援する側」のケア

災害時、企業の経営層や人事・総務担当者、そして産業保健スタッフといった「支援する側」の人たちも、多くの場合「被災者」です。 自分自身や家族が被災していながら、会社や従業員を守るという支援者の役割を担い続けるのは、想像を絶する過酷なストレスを伴います。「支援者自身がケアを受けられる体制(外部のEAPや産業医連携など)」づくりも、持続可能なBCPには欠かせない視点です。

おわりに

災害対策は、「起きてから」では間に合いません。「起きる前」の準備がすべてです。

9月は防災の日(9月1日)もありましたし、社内の備えを見直すタイミングです。まずは、自社のオフィスの備蓄品の消費期限や、AEDのバッテリー期限の点検から始めてみませんか。

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