ストレスチェックの実施者は誰がなれる?実施事務従事者との違い・人事権のある人の制限・外部委託の注意点を産業医が解説

ストレスチェックを始めるとき、最初に決めなければならないのが「実施者」です。人事部長が実施者になってよいのか、外部に委託した場合は誰が実施者になるのか、産業医は必ず関わらなければならないのか――。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、ストレスチェックの実施者と実施事務従事者のルールを、条文にもとづいて解説します。2028年4月からは従業員50人未満の事業場でも実施が義務になるため、早めに体制を整えておきましょう。
結論:実施者は医師・保健師など。人事権のある人は実施の事務に関われない
- 実施者になれるのは、医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です(労働安全衛生規則第52条の10)。
- 社員の解雇・昇進・異動について直接の権限を持つ人(人事部長・社長など)は、実施の事務に従事できません。
- 結果は実施者から本人に直接通知され、本人の同意がなければ会社に提供されません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。
- 産業医が実施者になる(共同実施者を含む)のが望ましいとされており、高ストレス者の面接指導や集団分析を一貫して行えます。
ストレスチェックにかかわる人と役割
| 役割 | 誰がなれるか | 主な仕事 |
|---|---|---|
| 実施者 | 医師、保健師、研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師 | 調査票の選定・評価方法と高ストレス者の基準の決定への関与、高ストレス者の判定、面接指導が必要かの判断、結果の本人への通知 |
| 実施事務従事者 | 実施者の指示を受けて事務を行う人(社内の担当者でもよいが、人事権のある人は不可) | 調査票の配布・回収、データ入力、結果の封入・送付、記録の保存など |
| 事業者(会社) | ― | 実施計画の策定、衛生委員会での審議、受検の勧奨、面接指導の実施、集団分析にもとづく職場改善、監督署への報告 |
| 面接指導を行う医師 | 医師(産業医が望ましい) | 高ストレス者で申出をした人の面接指導と、就業上の措置についての意見 |
人事部の担当者は関われるのか
労働安全衛生規則第52条の10第2項は、検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならないと定めています。
- 人事部長、役員、社長など人事権のある人は、調査票の回収や結果の取扱いに関われません。
- 人事部の一般の担当者は、人事権がなければ実施事務従事者になれますが、知り得た秘密を漏らしてはならない守秘義務を負います(労働安全衛生法第105条)。
- 受検の勧奨(未受検者への声かけ)や、面接指導の申出の受付・日程調整は、実施の事務とは別に会社として行えます。
中小企業では人事と総務を一人が兼ねていることも多く、社内で実施事務を担える人がいない場合は、外部のWebストレスチェックを使うのが現実的です。
外部に委託する場合の注意点
- 委託先の医師・保健師が実施者になる場合でも、産業医を共同実施者にしておくと、高ストレス者の面接指導や職場改善につなげやすくなります。
- 委託先が使う調査票(57項目の職業性ストレス簡易調査票など)と、高ストレス者の選定基準を、事前に衛生委員会で確認します。
- 集団分析の結果を職場単位で受け取れるか、10人未満の集団の扱いはどうなるかを確認します。
- 面接指導を誰が行うか(委託先の医師か、自社の産業医か)を決めておきます。
記録の保存と報告
| 項目 | ルール |
|---|---|
| 結果の通知 | 実施者から本人へ、遅滞なく通知(労働安全衛生規則第52条の12) |
| 会社への提供 | 本人の同意(書面または電磁的記録)がある場合のみ(同規則第52条の13) |
| 会社が提供を受けた結果の記録 | 5年間保存(同規則第52条の13) |
| 集団分析 | 部署ごとなどに集計・分析させ、職場環境の改善に活かすよう努める(同規則第52条の14) |
| 監督署への報告 | 常時50人以上の事業場は、1年以内ごとに1回、電子申請で報告(同規則第52条の21) |
2028年4月から50人未満も義務に
法改正により、2028年4月から従業員50人未満の事業場でもストレスチェックの実施が義務になります。50人未満の事業場では、社内に人事権のない担当者を確保しにくく、実施者となる医師もいないことが多いため、外部のWebストレスチェックと、面接指導を頼める医師をセットで準備しておくことが大切です。準備の流れはストレスチェック50人未満の義務化で解説しています。
うえまつ産業医事務所では、当事務所の産業医が実施者を務める「ストレスチェックWeb」を、受検者1名330円(税込。実施者・集団分析込み、10名までは3,300円)で提供しています。高ストレス者の面接指導も当事務所に依頼できます(1回22,000円・税込)。社員の方が個人で試せる無料のストレスセルフチェック(57項目)もご用意しています。
うえまつ産業医事務所にご相談ください
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よくある質問
ストレスチェックの実施者には誰がなれますか?
医師、保健師、または厚生労働大臣が定める研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です(労働安全衛生規則第52条の10)。
人事部長がストレスチェックの実施事務に関わってもよいですか?
関われません。検査を受ける労働者の解雇・昇進・異動について直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならないと定められています(労働安全衛生規則第52条の10第2項)。
ストレスチェックの結果は会社に知らされますか?
本人の同意がなければ、実施者から会社に提供されることはありません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。同意は書面または電磁的記録で取り、提供を受けた結果は会社が5年間保存します。
産業医は必ずストレスチェックの実施者にならなければいけませんか?
法律上の義務ではありませんが、産業医が実施者または共同実施者になることが望ましいとされています。産業医が関わることで、高ストレス者の面接指導や職場環境の改善までを一貫して行えます。
まとめ
ストレスチェックの実施者は医師・保健師などに限られ、人事権のある人は実施の事務に関われません。結果は本人の同意なく会社に渡らない仕組みのため、社員が安心して正直に回答できます。2028年4月からの50人未満の義務化に向けて、実施者・実施事務従事者・面接指導の医師を決め、衛生委員会で審議しておきましょう。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 労働者健康安全機構「産業保健とは」(産業保健総合支援センター・地域産業保健センター)
- 労働契約法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
産業医面談の基本:産業医面談とは|対象者と種類・流れ・話す内容・守秘義務
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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