精神障害の労災認定基準とは|3つの要件、2023年改正(カスハラ追加)、長時間労働・ハラスメントの評価と会社の対応を産業医が解説

「メンタル不調で休んでいる社員から、労災を申請したいと言われた」。長時間労働やハラスメントが背景にあるとき、人事・総務の方からいただく相談です。精神障害が労災と認められるかは、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」で判断されます。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、認定の3つの要件、2023年9月の改正点、長時間労働やハラスメントの評価、会社が日ごろからできる予防を解説します。
結論:発病前おおむね6か月の「業務による強い心理的負荷」が認められるかで判断される
- 対象となる精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷や個体側要因によるものではないことの3つを満たすと、労災と認められます。
- 2023年9月の改正で、カスタマーハラスメントと感染症等の危険性が高い業務が、評価する出来事に加わりました。
- 発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働などは「特別な出来事」として、それだけで心理的負荷が「強」と評価されます。
- 労災かどうかを判断するのは労働基準監督署です。会社は、申請に必要な事実の確認に協力します。
認定の3つの要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 1. 対象疾病の発病 | ICD-10の「精神及び行動の障害」に分類される精神障害(器質性のものと有害物質によるものを除く)。業務に関連して発病することが多いのは、うつ病などの気分障害、適応障害などのストレス関連障害 |
| 2. 業務による強い心理的負荷 | 発病前おおむね6か月の間の出来事を「業務による心理的負荷評価表」にあてはめ、総合評価が「強」になること |
| 3. 業務以外の要因によらない | 業務以外の心理的負荷(家族の病気など)や個体側要因(既往歴、アルコール依存など)により発病したとは認められないこと |
2023年9月の主な改正点
- カスタマーハラスメント:顧客や取引先、施設利用者などから著しい迷惑行為を受けたことが、具体的な出来事として追加されました(カスタマーハラスメント対策の義務化)。
- 感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事したことが、具体的な出来事として追加されました。
- パワーハラスメント:6類型すべての具体例が評価表に明記され、性的指向・性自認に関する精神的な攻撃なども含むことが明記されました。
- 悪化の扱い:すでに発病していた精神障害が悪化した場合、悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がなくても、業務による強い心理的負荷で悪化したときは、悪化した部分について労災と認められるようになりました。
- 医学意見の収集:専門医3名の合議が必要だった事案の多くが、1名の意見で決定できるようになり、審査の迅速化が図られました。
長時間労働はどう評価されるか
| 状況 | 評価 |
|---|---|
| 発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働(3週間におおむね120時間以上なども同程度) | 「特別な出来事」として、総合評価は「強」 |
| 発病直前の連続した2か月間に、1か月あたりおおむね120時間以上の時間外労働 | 「強」 |
| 発病直前の連続した3か月間に、1か月あたりおおむね100時間以上の時間外労働 | 「強」 |
| 1か月おおむね100時間の時間外労働が続く中で、仕事上のほかの出来事があった | 恒常的な長時間労働として、出来事の心理的負荷が強めに評価される |
長時間労働の面接指導は、こうした状況になる前に、医師が本人の状態を確認する仕組みです(長時間労働者の面接指導の流れ、過労死ラインとは)。
ハラスメントはどう評価されるか
上司などからの身体的攻撃や精神的攻撃、同僚からのいじめ・嫌がらせ、セクシュアルハラスメント、カスタマーハラスメントは、評価表の具体例にあてはめて「強」「中」「弱」を判断します。繰り返される出来事は一体のものとして評価し、発病の6か月より前に始まっていても、発病前おおむね6か月の期間にも続いていれば、始まった時点からのすべての行為が評価の対象になります。会社が相談を受けても適切な対応をしなかったことも、評価を強める要素です(職場のハラスメント対策)。
労災の申請があったときの会社の対応
- 申請を妨げない:労災の申請は本人(遺族)が労働基準監督署に行います。会社が「労災ではない」と判断して申請を止めることはできません。
- 事実を確認して記録する:労働時間の記録、業務内容、ハラスメントの相談記録など、監督署の調査に必要な資料を整理します。
- 会社の意見を伝える:請求書の事業主証明を記入します。会社として事実と異なると考える点があれば、労働基準監督署に意見を申し出ることができます。
- 休業中のケアを続ける:労災の結論が出るまでには時間がかかります。その間も、本人への連絡、傷病手当金などの手続き、主治医との連携を進めます(社員を休職させるべきか)。
会社が日ごろからできる予防
- 労働時間を客観的に把握し、長時間労働の人に面接指導を行う
- ハラスメント・カスタマーハラスメントの相談窓口を設け、相談があれば速やかに対応する
- ストレスチェックの集団分析を職場の改善に活かす
- 「いつもと違う」様子に気づいたら声をかけ、産業医につなぐ(メンタル不調のサインと声のかけ方)
- 安全配慮義務の観点から、記録と対応の手順を整えておく(安全配慮義務とは)
うえまつ産業医事務所にご相談ください
うえまつ産業医事務所では、長時間労働者・高ストレス者の面接指導、メンタル不調の社員への対応、休職・復職の判定、ハラスメントの相談対応への助言を、同じ産業医が継続して行います。臨時の相談や面談にも追加費用はかかりません。
- 嘱託産業医:2か月に1回の訪問で月額30,000円、毎月訪問で月額50,000円(税別)
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事務所の概要は京都の産業医|うえまつ産業医事務所、料金とご契約の流れは報酬・ご契約の流れ、ご相談はお問い合わせから(翌営業日までに返信します)。
よくある質問
精神障害が労災と認められる要件は何ですか?
対象となる精神障害を発病していること、発病前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められること、業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないことの3つです(心理的負荷による精神障害の認定基準)。
2023年の改正で何が変わりましたか?
カスタマーハラスメントと、感染症等の病気や事故の危険性が高い業務が、評価する出来事に加わりました。パワーハラスメントの6類型の具体例も明記され、発病後の悪化について労災と認められる範囲が広がりました。
残業が何時間を超えると労災と認められやすいですか?
発病直前の1か月におおむね160時間を超える時間外労働は「特別な出来事」として「強」と評価されます。連続した2か月間に月おおむね120時間以上、連続した3か月間に月おおむね100時間以上の時間外労働も「強」と評価されます。
社員から労災を申請したいと言われたら、会社はどうすればよいですか?
労災の申請は本人が労働基準監督署に行い、判断も監督署が行います。会社は申請を妨げず、労働時間の記録など事実の確認に協力します。
まとめ
精神障害の労災は、発病前おおむね6か月の業務による心理的負荷が「強」と評価されるかで判断されます。2023年の改正でカスタマーハラスメントが加わり、長時間労働やハラスメントの評価の具体例も明確になりました。労働時間の把握、面接指導、相談窓口の運用といった日ごろの対応が、社員と会社の両方を守ります。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- あかるい職場応援団(厚生労働省 ハラスメント対策の総合情報サイト)
- 労働施策総合推進法(パワハラ防止の根拠法、e-Gov法令検索)
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 労働者災害補償保険法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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