脳・心臓疾患の労災認定基準とは|対象疾病、3つの認定要件、月100時間・平均80時間と45時間の目安、勤務間インターバルなど2021年改正のポイントを産業医が解説

脳・心臓疾患の労災認定基準とは|対象疾病、3つの認定要件、月100時間・平均80時間と45時間の目安、勤務間インターバルなど2021年改正のポイントを産業医が解説(うえまつ産業医事務所)
月100時間・平均80時間に届かなくても、それに近い残業と他の負荷があれば総合的に評価されます。

「社員が脳梗塞で倒れた。残業が多かったが、労災になるのか」「過労死ラインの80時間に届いていなければ大丈夫?」。長時間労働のある会社の方からいただく質問です。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定基準」(2021年9月改正)の対象となる病気、3つの認定要件、労働時間の目安と労働時間以外の負荷、会社が日ごろからやっておくことを解説します。

結論:月100時間・平均80時間だけでなく、それに近い残業と他の負荷でも認定されうる

  • 対象は、脳内出血・くも膜下出血・脳梗塞・高血圧性脳症と、心筋梗塞・狭心症・心停止(心臓性突然死を含む)・重篤な心不全・大動脈解離です。重篤な心不全は2021年の改正で加わりました。
  • 認定要件は、①異常な出来事、②短期間の過重業務、③長期間の過重業務の3つで、いずれかにあたる業務による明らかな過重負荷を受けて発症した場合に、業務上の疾病として扱われます。
  • 長期間の過重業務では、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2〜6か月の平均で月おおむね80時間を超える時間外労働があると、業務と発症との関連性が強いと評価されます。
  • 改正で、この水準に届かなくてもこれに近い時間外労働があり、労働時間以外の負荷(勤務間インターバルが短い勤務、休日のない連続勤務、身体的負荷など)も認められる場合は、総合的に評価して認定しうることが明確になりました。
4コマ漫画「残業は月70時間、80時間未満だから安心」:総務部長に、メーくんが、それだけでは安心できず、休日のない連勤や短い勤務間インターバルなどほかの負荷もあわせて評価されると伝え、勤務の組み方と面接指導の見直しをすすめる

対象となる病気

区分対象疾病
脳血管疾患脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症
虚血性心疾患等心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全(2021年追加。不整脈によるものを含む)、大動脈解離
脳・心臓疾患の労災認定基準の対象疾病

3つの認定要件と評価期間

認定要件評価する期間内容
①異常な出来事発症直前から前日まで極度の緊張・興奮・恐怖・驚がくなどの強い精神的負荷、急激で著しい身体的負荷、急激で著しい作業環境の変化をもたらす出来事。業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合、事故に伴う著しい救助活動や事故処理に携わった場合など
②短期間の過重業務発症前おおむね1週間発症直前から前日までに特に過度の長時間労働があった場合や、発症前おおむね1週間継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働があった場合など
③長期間の過重業務発症前おおむね6か月著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務。労働時間と、労働時間以外の負荷要因をあわせて評価する
脳・心臓疾患の3つの認定要件(2021年9月改正)

業務の過重性は、本人だけでなく、同じ程度の年齢・経験の同僚にとっても特に過重かという観点で評価されます。もともと高血圧などの基礎疾患がある人でも、業務による負荷が自然経過を超えて悪化させたと認められれば、業務上とされることがあります。

長期間の過重業務:労働時間の目安

残業時間と脳・心臓疾患との関連の図解:月45時間以下は関連が弱い、45時間を超えて長くなるほど徐々に強まる、1か月100時間超または2〜6か月平均80時間超は関連が強い。80時間に届かなくても連続勤務・短いインターバル・身体的負荷などとあわせて評価
発症前1〜6か月の時間外労働業務と発症との関連性
月おおむね45時間を超えない弱い
月おおむね45時間を超えて長くなるほど徐々に強まる
発症前1か月におおむね100時間を超える、または発症前2〜6か月の平均で月おおむね80時間を超える強い
長期間の過重業務における時間外労働の評価

ここでいう時間外労働は、1週間あたり40時間を超えて働いた時間です。休日労働も含みます。いわゆる「過労死ライン」の考え方と、会社が行う医師の面接指導については、過労死ラインとはと長時間労働者の面接指導の流れで解説しています。

労働時間以外の負荷要因

2021年の改正で、労働時間以外の負荷要因が見直され、次の項目が評価の対象として整理されました。勤務間インターバルが短い勤務とは、終業から次の始業までがおおむね11時間未満の勤務です。

区分具体的な負荷要因
勤務時間の不規則性拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
事業場外における移動を伴う業務出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務
心理的負荷を伴う業務日常的に心理的負荷を伴う業務や、心理的負荷を伴う具体的出来事
身体的負荷を伴う業務重量物の運搬など、身体的な負荷の大きい業務
作業環境温度環境、騒音(長期間の過重業務では付加的に評価)
労働時間以外の負荷要因(2021年9月改正の認定基準)

精神障害の労災認定は別の基準で判断します(精神障害の労災認定基準)。

社員が倒れたときに会社がやること

  1. 救急対応と家族への連絡:まず救急車を呼び、家族に連絡します。
  2. 労働者死傷病報告:休業4日以上なら遅滞なく、労働基準監督署に提出します(労働者死傷病報告の出し方)。
  3. 労働時間の記録を保全する:タイムカード、PCのログ、入退室記録、業務メールなど、発症前6か月の労働時間がわかる資料を保管します。労災の請求では、これらの資料をもとに労働時間が調査されます。
  4. 労災請求への協力:請求するのは本人または遺族です。会社は事業主証明の欄の記入などに協力します。休業中の補償については労災の休業補償給付をご覧ください。

予防のために日ごろからやっておくこと

  • 労働時間を客観的に把握する:管理監督者を含めて、タイムカードやPCのログなどで把握します(労働安全衛生法第66条の8の3)。
  • 面接指導を確実に行う:時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積がある社員から申出があれば、医師による面接指導を行います(月80時間残業のリスク)。
  • 勤務間インターバルを確保する:労働時間等設定改善法で、事業主の努力義務とされています。
  • 健康診断の結果をもとに就業上の配慮をする:血圧や血糖が高い社員の長時間労働や深夜業を控えるなど、医師の意見を聴いて措置を決めます(健康診断後の医師の意見聴取(就業判定))。
  • 二次健康診断等給付を案内する:定期健康診断で血圧・血中脂質・血糖・腹囲(またはBMI)のすべてに異常の所見がある社員は、労災保険で脳・心臓の二次健康診断と保健指導を無料で受けられます(労働者災害補償保険法第26条)。

これらは、会社の安全配慮義務を果たすうえでも基本となる対策です。

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うえまつ産業医事務所では、長時間労働者の面接指導、健康診断後の就業判定(高血圧・糖尿病などのある社員の残業・深夜業の配慮)、衛生委員会での労働時間の状況の確認と対策の助言を、毎月定額の範囲で行います。

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よくある質問

過労死ラインの80時間に届いていなければ労災になりませんか?

認定されることがあります。2021年の改正で、月100時間・平均80時間に近い時間外労働があり、勤務間インターバルが短い勤務や身体的負荷などの労働時間以外の負荷も認められる場合は、総合的に評価して業務上と認定しうることが明確になりました。

脳・心臓疾患の労災認定基準の対象となる病気は?

脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む)、重篤な心不全、大動脈解離です。重篤な心不全は2021年の改正で追加されました。

もともと高血圧があった社員でも労災になりますか?

基礎疾患があっても、業務による明らかな過重負荷によって自然経過を超えて悪化し発症したと認められれば、業務上とされることがあります。

勤務間インターバルが短い勤務とは何時間ですか?

認定基準では、終業から次の始業までがおおむね11時間未満の勤務を、労働時間以外の負荷要因として評価します。

まとめ

脳・心臓疾患の労災認定では、月100時間・平均80時間の目安だけでなく、それに近い時間外労働と、勤務間インターバル・連続勤務・身体的負荷などをあわせて評価します。労働時間の客観的な把握、面接指導、健康診断後の就業上の配慮を日ごろから行い、発症を防ぎましょう。

参考:公的機関の資料

この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。

この記事を書いた人

上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。

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うえまつ産業医事務所 所長
上松 弘典
産業医・労働衛生コンサルタント
総合内科専門医
博士(社会健康医学)
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