メンタル不調のサインと声のかけ方|部下の「いつもと違う」に気づいたら上司・人事がすること(ラインケア・声かけの例・産業医につなぐ手順)

厚生労働省の調査によると、働く人の8割以上が「仕事や職業生活で強い不安・悩み・ストレスを感じている」と回答しています。 同僚や部下の様子が「最近いつもと違う」「なんだか心配だな」と気づいたとき、力になりたいと思う一方で、「どう声をかければいいのだろう」「プライベートなことに踏み込んでいいのだろうか」と対応に迷う方は多いのではないでしょうか。

※京都の事業場で、産業医とメンタルヘルス対策を進める方法(産業医ができること・京都の無料相談窓口・休職から復職までの流れ)は「京都の産業医によるメンタルヘルス対策」にまとめています。

※今のストレスの状態は、無料のストレスチェック(セルフチェック・57項目・約5分)で確認できます。回答はどこにも保存されません。

今回は、職場のメンタルヘルスケアにおける【周囲の気づきと声かけの第一歩】について整理します。

結論:病名ではなく「いつもと違う」事実に気づき、責めずに声をかけ、ひとりで抱えずにつなぐ

  • サインは勤怠・仕事ぶり・表情や言動・体調の訴えに表れます。普段のその人と比べて「いつもと違う」状態が数日〜数週間続いていないかに注目します。
  • 声をかけるときは、「最近、遅い時間まで残っているけど大丈夫?」のように見えている事実と心配している気持ちを伝え、まずは話を聴きます。
  • 「頑張れ」「気の持ちよう」といった励ましや、病名の推測は避けます。
  • 上司がひとりで抱え込まず、人事・保健師・産業医につなぐ手順を社内で決めておきます。
4コマ漫画:顔色の悪い若手社員に「元気出せ、気の持ちようだ」と励ます課長。めーくんは「励ましより、まず聴いてください。そのあとは事例性で人事へ」

ラインケアとは:上司の役割は「診断」ではなく「気づく・声をかける・つなぐ」

厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」は、職場のメンタルヘルス対策を「4つのケア」で進めるとしています。このうち、管理監督者(上司)が部下の変化に気づき、相談に乗り、職場環境を改善することをラインによるケア(ラインケア)といいます。

ケア内容
セルフケア社員自身がストレスに気づき、対処する
ラインによるケア上司が部下の変化に気づき、相談対応や職場環境の改善を行う
事業場内産業保健スタッフ等によるケア産業医・保健師・人事などが支援する
事業場外資源によるケア医療機関や外部の相談機関を活用する
メンタルヘルス対策の4つのケア

上司は、うつ病かどうかを判断したり、無理に悩みを聞き出してカウンセリングをしたりする必要はありません。役割は、「いつもと違う」という客観的な事実に気づき、声をかけ、人事や産業医にスムーズにつなぐことです。休職した社員の上司から「突然診断書が出てきて驚いた」と聞くことがありますが、不調はある日突然起きるのではなく、多くの場合、その前に小さなサインが出ています。

1. 過去最多を更新する「メンタル不調の労災」

仕事による強いストレスが原因で発症した精神障害の労災認定件数は年々増加し続け、2024年度には初めて1,000件を超え、過去最多を記録しました。その原因として最も多いのが「パワーハラスメント」です。

こうしたデータが示す通り、メンタルヘルスの不調は、決して「メンタルが弱い特定の人」だけの問題ではなく、誰の職場で起きてもおかしくない身近な経営課題です。だからこそ、手遅れになる前に周囲がいち早く気づき、適切な対応をとることが組織全体に求められています。

2. 気を付けたい「いつもと違う」のサイン

不調のサインは、日々の業務の中でさまざまな形となって現れます。ポイントは「病気かどうか」を探るのではなく、「普段のその人と比べて『いつもと違う』点があるか」に気づくことです。

  • 外見・表情の変化:笑顔が減った、表情が暗い、以前より身だしなみ(服装や髪型)が乱れている。
  • 体調面の変化:「頭痛がする」「めまいがする」「食欲がない」「夜よく眠れない」といった身体的な不調の訴えが増えた。
  • 言動の変化:口数が減って一人でいることが増えた、離席が多い、落ち着きがない、あるいは急に怒りっぽくなった。
  • 業務面(勤怠)の変化:遅刻・早退・突発的な欠勤が増えた、普段しないようなミスが増えた、残業が不自然に増えている。

こうした「いつもと違う」変化が数日〜数週間続くようであれば、それは本人が発しているSOSのサインかもしれません。

本人が気づきやすいストレスサイン(身体・行動・心)とセルフケア

ストレスは、頭で自覚するより先に、身体や行動の変化として表れやすいといわれます。上司だけでなく本人も、次のサインを知っておくことが大切です。

サイン例
身体夜中に何度も目が覚める、朝早く目覚める、肩こりや頭痛が続く、胃痛や便秘・下痢をくり返す
行動お酒やたばこの量が増える、食欲が極端に増える・減る、探し物やケアレスミスが増える
心ちょっとしたことでイライラする、好きだった趣味を楽しめない、何をするのもおっくうになる
ストレスサインの3つの表れ方

特に睡眠の変化は早く表れやすいサインです。眠れない状態が2週間以上続くときは、早めに産業医や医療機関に相談してください。

  • 睡眠と休養の時間を先に確保する
  • 気分転換の方法は、散歩・入浴・人と話すなど小さなものを複数もっておく
  • お酒やたばこで紛らわせない(量が増えると、かえって睡眠や体調を悪くする)
  • ひとりで抱えず、上司・人事・産業医や社外の相談窓口に話す

今のストレスの状態は無料のストレスセルフチェック(57項目)でも確認できます。職場全体でサインに気づく仕組みとしてはストレスチェック制度があり、2028年4月からは従業員50人未満の事業場でも実施が義務になります(ストレスチェック50人未満の義務化)。

3. 声のかけ方と、魔法の言葉「事例性」

普段と違う様子に気づいたら、積極的に声をかけ、まずは話を聴いてみましょう。 このとき絶対に避けていただきたいのが、「批判や否定をすること」や、「頑張れ」「気の持ちようだよ」といった安易な励ましをすることです。これらはかえって本人を深く追い詰めてしまいます。まずは「本人の辛い気持ちをそのまま受け止める」姿勢を見せるだけで、相手はずいぶん楽になります。

そして、相談を受けた際、管理職や同僚が最も陥りやすい落とし穴が「これはうつ病ではないか?」と自分で判断しようとしてしまうことです。 ここでぜひ知っておいていただきたいのが、「疾病性(しっぺいせい)」と「事例性(じれいせい)」という考え方です。

  • 疾病性:病名や医学的な症状のこと。これは医師(専門家)が判断し、扱う領域です。
  • 事例性:「遅刻が増えた」「ミスが増えた」「周囲とトラブルを起こす」といった、業務上で実際に起きている困りごとの事実です。

職場が目を向けるべきは、圧倒的に後者の「事例性」です。 「Aさんはうつ病かもしれない」と病名を推測して一人で抱え込むのではなく、「最近、今までになかったミスが続いていて、集中できていない様子だ。何か業務で困っているのかな」と客観的な事例性で捉えるようにしてください。

すると、「仕事で負担になっていることがあるみたいだし、体調も少し心配だから、一度会社の産業医と面談してみない?」と、病名を決めつけることなく、本人も納得しやすい形で自然に専門家へ受診を勧めることができるようになります。

1コマ漫画:「たぶんうつ病です」と報告する課長に、めーくんが「病名ではなく『遅刻4回』と事実で伝えてください」

声かけの言葉の例(よい例・避けたい例)

場面よい例避けたい例
最初の声かけ「最近、少し疲れているように見えるけど、大丈夫?」「最近たるんでるんじゃない?」
事実を伝える「今月は遅刻が何回か続いているから、心配で声をかけたよ」「うつなんじゃないの?」
話を聴く「話せる範囲でいいから聞かせて」(さえぎらずに最後まで聴く)「みんなも大変なんだから」
励まし「話してくれてありがとう。一緒に考えよう」「頑張れ」「気の持ちようだよ」
つなぐ「体調も心配だから、一度産業医と話してみない?」「病院に行ってこないと仕事は任せられない」
メンタル不調が心配な部下への声かけの例

声をかけるのは、ほかの人に聞かれない場所と時間を選びます。本人が「大丈夫です」と答えても、様子が変わらなければ、数日あけてもう一度声をかけます。

すぐに対応が必要なサイン

次のようなときは、様子を見ずに、その日のうちに人事・産業医・家族と連携して対応します。

  • 「消えてしまいたい」「死にたい」など、自分を傷つけることをほのめかす言葉がある
  • 無断欠勤が続き、連絡がとれない
  • 眠れない・食べられない状態が続き、明らかにやつれている
  • つじつまの合わない話や、極端に興奮した様子がある

自分を傷つけるおそれがあるときは、本人をひとりにせず、家族に連絡し、医療機関の受診につなげます。命に関わる緊急時は、ためらわずに119番に連絡してください。

4. 管理職から人事・保健師へ、そして産業医面談へつなぐ手順

管理職が声をかけるところまでは本文のとおりですが、その先を「誰が、何を根拠に、どこへつなぐか」まで決めておかないと、気づいた人が一人で抱え込むことになります。人事・労務・保健師の方には、次の流れを社内の手順として用意しておくことをおすすめします。

  1. 管理職から人事(または保健師)へ報告:報告は「遅刻が今月4回」「先週から提出物の遅れが続く」のように事例性で。「うつかもしれない」という推測は書かない
  2. 人事・保健師が本人と面談:勤怠や業務の事実を示し、体調を確認する。保健師がいる会社では、ここを保健師が担うと本人も話しやすい
  3. 産業医面談を設定:本人の同意を得て日程を組む。産業医は、受診の必要性、残業制限や業務量の調整といった就業上の配慮について会社に意見を出す
  4. 措置の決定と記録:会社が措置を決め、本人と上司に伝える。上司に伝えるのは配慮の内容(残業禁止など)だけで、病名や面談内容は伝えない
  5. フォローの期限を決める:「1か月後に再面談」と区切り、改善していれば配慮を戻す。休職が必要な場合は、主治医の診断書と産業医の意見をもとに会社が判断する

5. やってはいけない3つの対応

  • 病名を決めつける・詮索する:「うつじゃないか」「家で何かあったのか」は本人を追い詰め、ハラスメントと受け取られることもあります。扱うのは事例性だけです
  • 本人の同意なく主治医や家族に連絡する:健康情報は本人の同意が原則です。会社から主治医に問い合わせたいときは、本人の同意書を取り、産業医を通すのが安全です
  • 「とりあえず休め」と口頭で済ませる:休ませること自体は必要でも、産業医の意見・本人の意向・休職の手続きと記録がないと、後で復職や処遇をめぐってトラブルになります

6. よくあるご質問

Q. 本人が「大丈夫です」と言って面談を断ります。

体調を理由にすると断られやすいので、「遅刻が続いているので業務上の面談をしたい」と、勤怠・業務の事実(事例性)を根拠に設定します。会社には安全配慮義務があり、事例性に基づく面談は業務上の正当な指示です。それでも応じない場合は、産業医に相談のうえ対応を記録に残してください。

Q. 従業員50人未満で産業医がいません。

地域産業保健センター(地さんぽ)で無料の医師面談が受けられます。休職・復職の判断が絡む場合や、継続して相談したい場合は、産業医事務所のスポット相談や顧問契約も選択肢です。

Q. 保健師がいる会社では、最初に保健師が話を聴いてよいですか。

むしろ望ましい形です。保健師は本人が相談しやすい最初の窓口になり、事例性と体調の情報を整理して産業医につなぐ役割を担えます。保健師の面談記録も健康情報として、社内の取扱規程に沿って管理してください。

うえまつ産業医事務所にご相談ください

うえまつ産業医事務所では、管理職から相談を受けた段階での助言、本人との面談、主治医との連携、休職・復職の判断まで、同じ産業医が一貫して担当します。

  • 嘱託産業医:2か月に1回の訪問で月額30,000円、毎月訪問で月額50,000円(税別)
  • 従業員50人未満の顧問契約:月額20,000円(税別)/1回だけのスポット相談:20,000円(税別)
  • 毎月定額。職場巡視・衛生委員会への出席、臨時の相談・面談、交通費、意見書の作成、Webストレスチェック・健康管理Webに追加費用はかかりません
  • 紹介会社を通さず、労働衛生コンサルタント・総合内科専門医の上松が継続して担当します(京都・大阪・滋賀・奈良へ訪問、全国Web面談)

事務所の概要は京都の産業医|うえまつ産業医事務所、料金とご契約の流れは報酬・ご契約の流れ、ご相談はお問い合わせから(翌営業日までに返信します)。

よくある質問

メンタル不調のサインにはどんなものがありますか?

遅刻・早退・欠勤が増える、普段しないミスが増える、表情が暗い、口数が減る、身だしなみが乱れる、頭痛や不眠などの体調の訴えが増える、といった「いつもと違う」変化が代表的です。数日〜数週間続くときは注意が必要です。

メンタル不調が心配な部下にはどう声をかければよいですか?

「最近、遅い時間まで残っているけど大丈夫?」のように、見えている事実と心配している気持ちを伝え、まずは話を聴きます。「頑張れ」などの励ましや病名の推測は避けます。

声をかけても「大丈夫です」と言われたらどうすればよいですか?

無理に聞き出さず、「いつでも話してね」と伝えて見守ります。様子が変わらなければ、数日あけて再度声をかけ、人事や産業医にも相談します。

上司はどこまで対応すればよいですか?

上司の役割は、変化に気づき、声をかけ、人事・保健師・産業医につなぐことです。病気かどうかの判断は医師に任せ、上司がひとりで抱え込まないようにします。

ラインケアとは何ですか?

厚生労働省の指針が示す「4つのケア」の1つで、上司(管理監督者)が部下の「いつもと違う」変化に気づいて声をかけ、相談に乗り、人事や産業医につなぐことや、職場環境を改善することをいいます。上司が病気かどうかを判断する必要はありません。

おわりに

「なんだか様子がおかしいな」と気づいて声をかけた後は、現場だけで抱え込まないことが何より肝心です。

産業医や保健師、あるいは人事労務の担当者と連携し、「気づく・聴く・つなぐ」という3つのステップを意識するだけで、職場の安全性は大きく向上します。 次回は、この「つなぐ」ための仕組みを組織としてどう整えていくべきか、さらに詳しく取り上げます。

参考:公的機関の資料

この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。

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うえまつ産業医事務所 所長
上松 弘典
産業医・労働衛生コンサルタント
総合内科専門医
博士(社会健康医学)
産業医のプロフィール
うえまつ産業医事務所 所長・産業医 上松弘典
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