職場のハラスメント対策とは|パワハラの3要素と6類型、会社の防止措置義務、指導との線引き、相談対応と2026年10月のカスハラ義務化を産業医が解説
職場のハラスメント対策とは、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・妊娠出産等に関するハラスメント・カスタマーハラスメントなどを防ぐために、会社が方針を示し、相談体制を整え、起きたときに迅速に対応する取組です。パワハラの防止措置は2022年4月から中小企業も含めてすべての事業主の義務になり、2026年10月1日からはカスタマーハラスメント対策も義務になりました。
この記事では、京都で嘱託産業医としてハラスメントの相談を受けた社員の面談も行っている筆者が、人事・総務の方に向けて、各ハラスメントの定義、会社が講じる措置、指導との線引き、相談を受けたときの進め方を整理します。

1. パワーハラスメントの定義:3つの要素
労働施策総合推進法第31条(2026年9月までは第30条の2)にもとづく指針では、職場のパワーハラスメントを、次の3つの要素をすべて満たすものとしています。
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ① 優越的な関係を背景とした言動 | 上司から部下だけでなく、知識や経験のある同僚・部下からの言動、集団による言動も含む |
| ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの | 業務上明らかに必要のない言動、目的を大きく外れた言動、手段として不適当な言動など |
| ③ 労働者の就業環境が害されるもの | 身体的・精神的な苦痛を与え、働くうえで見過ごせない支障が生じること |
客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラにはあたりません。
2. パワハラの6つの類型
| 類型 | 例 |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 殴る、蹴る、物を投げつける |
| 精神的な攻撃 | 人格を否定する発言、大勢の前での長時間の叱責、威圧的な叱責のくり返し |
| 人間関係からの切り離し | 仕事を外す、別室に隔離する、集団で無視する |
| 過大な要求 | 明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制 |
| 過小な要求 | 能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない |
| 個の侵害 | 私的なことに過度に立ち入る、性的指向・病歴などの機微な個人情報を本人の了解なく暴露する |
3. そのほかのハラスメントと会社の義務
| ハラスメント | 根拠 | 会社の義務 |
|---|---|---|
| セクシュアルハラスメント | 男女雇用機会均等法第11条(求職者へのセクハラは第13条) | 防止措置の義務(2026年10月からは就職活動中の学生などの求職者へのセクハラ防止も) |
| 妊娠・出産等に関するハラスメント | 男女雇用機会均等法第15条(2026年9月までは第11条の3)、育児・介護休業法第25条 | 防止措置の義務 |
| パワーハラスメント | 労働施策総合推進法第31条 | 防止措置の義務(中小企業も2022年4月から) |
| カスタマーハラスメント | 労働施策総合推進法(2025年改正) | 2026年10月1日から雇用管理上の措置の義務 |
カスタマーハラスメントの定義と具体的な措置はカスタマーハラスメント対策の義務化で詳しく解説しています。
4. 会社が講じなければならない措置
- 方針の明確化と周知・啓発:ハラスメントを行ってはならないこと、行った者への対処(懲戒など)を就業規則などに定め、研修や社内報で周知する
- 相談体制の整備:相談窓口を決めて周知し、担当者が適切に対応できるようにする(社外窓口も有効)
- 事後の迅速かつ適切な対応:事実関係の確認、被害者への配慮、行為者への措置、再発防止
- あわせて講じる措置:相談者・行為者のプライバシーの保護、相談したことや調査に協力したことを理由とする不利益な取扱いの禁止
5. 「指導」と「パワハラ」の線引き
管理職から「どこまで注意してよいのか」という相談をよく受けます。目安は、目的(業務の改善のためか)、内容(行動に向けたものか、人格に向けたものか)、方法(時間・場所・回数・言葉づかいが相当か)です。
| 適正な指導の例 | パワハラになりうる例 |
|---|---|
| 遅刻をくり返す社員に、理由を聞いたうえで改善を求める | 「社会人失格だ」「辞めてしまえ」と人格を否定する |
| ミスの原因を一緒に確認し、再発防止策を決める | 大勢の前で長時間にわたって叱責する、何度も同じことで責める |
| 重大な安全違反に対して強く注意する | 業務と関係のない私生活のことを執拗に問いただす |
6. 相談を受けたときの進め方と、心の健康への配慮
- 相談者の話を最後まで聞き、相談してくれたことを受け止める(その場で結論を出さない)
- 本人の意向(調査を望むか、まずは配置の配慮を望むか)を確認し、記録を残す
- 事実関係を、行為者・第三者から公正に確認する
- 必要に応じて、相談者と行為者を引き離す(配置・席・勤務時間の調整)
- 心身の不調がある場合は、本人の同意を得て産業医の面談や受診につなげる
- 措置を決めて本人に伝え、再発防止策を職場で実施する
ハラスメントは、うつ病などのメンタルヘルス不調の大きな原因になり、精神障害の労災認定基準でも、パワーハラスメントやカスタマーハラスメントの評価項目が設けられています(精神障害の労災認定基準とは)。相談者の体調に変化があれば、早めに医療や産業医につなげることが大切です。

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ハラスメント・メンタルヘルスのコラム
よくある質問
パワハラ防止措置は中小企業も義務ですか?
はい。労働施策総合推進法にもとづくパワハラ防止措置は、大企業は2020年6月から、中小企業も2022年4月からすべての事業主の義務です。方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応などが求められます。
パワハラの3要素とは何ですか?
①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの、の3つです。3つをすべて満たすものがパワハラにあたり、適正な範囲の業務指示や指導はパワハラではありません。
カスタマーハラスメント対策はいつから義務ですか?
2026年10月1日からです。事業主の方針の明確化と周知、相談体制の整備、事後の迅速かつ適切な対応、カスハラを抑止するための措置などが求められます。求職者等へのセクハラ防止措置も同日から義務になりました。
ハラスメントの相談を受けたら、まず何をすればよいですか?
相談者の話を最後まで聞いて記録を残し、本人の意向を確認します。そのうえで、事実関係を公正に確認し、必要に応じて相談者と行為者を引き離します。心身の不調があれば、本人の同意を得て産業医の面談や受診につなげます。
相談者のプライバシーはどう守ればよいですか?
相談内容は必要な人だけで共有し、相談したことや調査に協力したことを理由に不利益な取扱いをしないことを、あらかじめ社員に周知しておきます。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 労働施策総合推進法(第31条)(e-Gov法令検索)
- 男女雇用機会均等法(第11条・第13条・第15条)(e-Gov法令検索)
- あかるい職場応援団(厚生労働省 ハラスメント対策の総合情報サイト)
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント対策が事業主の義務になります」
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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