暑い夏が来る前に【熱中症対策】

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

昨年(2025年)の夏は、128年間の観測史上もっとも暑い夏となりました。それに伴い熱中症による死亡者は年々増加しており、職場においても休業4日以上の死傷者が初めて1,500人を超えています。特に建設業で多く発生しているほか、警備・農業・林業などでは重症化する割合が高いのが特徴です。

今回は、本格的な暑さを迎える前に必ず確認しておきたい、職場の【熱中症対策と法改正のポイント】について解説します。

1. 熱中症対策は「努力義務」から「罰則付きの義務」へ

これまで企業の努力義務とされてきた職場の熱中症対策ですが、労働安全衛生規則の改正により、2025年6月から事業者の「義務」となりました。

対象となるのは、「WBGT(暑さ指数)28℃以上、または気温31℃以上の環境」で、「連続1時間超、または1日4時間超の作業」を行う場合です。これは屋外の現場だけでなく、空調の効いていない室内や出張先、移動中の車内なども対象になり得ます。

【企業に求められる3つの柱】

  1. 体制の整備:体調不良を早期に見つけ、社内に報告する体制を整える
  2. 手順の作成:作業離脱・身体冷却・救急搬送など、重症化を防ぐための具体的な手順を定める
  3. 周知徹底:上記の内容を、関係するすべての従業員に周知する

これらに違反した場合は、罰則(6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が科される可能性もあります。職場での死亡事故の多くは「初期症状の放置」と「対応の遅れ」が原因とされており、今回の法改正はまさにその最悪の事態を防ぐためのものです。

2. 命を守るための「複合的な備え」と「重症化のサイン」

熱中症対策は、何か一つやれば完璧というものではありません。以下の対策を組み合わせてこそ、効果を発揮します。

① 現場環境とアイテムの複合的活用

日射や輻射熱を遮る環境づくり(テントでの遮熱・送風機・空調服など)はもちろんのこと、休憩時間の確保、水分や電解質(塩分)のこまめな補給、ファン付き作業着やPCM冷却ベストといった保冷グッズを積極的に導入しましょう。

② シーズン初めの「暑熱順化」と作業中止の目安

体が暑さに慣れることを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」と呼びます。体が慣れるまでの最初の数日間は、特に無理をさせない配慮が肝心です。 作業中であっても、「心拍数が『180−年齢』を超える」「わきの下の体温が37.5℃を超える」「体重が1.5%以上減る」といった客観的なサインが出たら、直ちに作業を止める判断をしてください。

③ 知っておきたい「最重症(Ⅳ度)」のリスク

人間の細胞は42℃で不可逆的なダメージ(元に戻らない変性)を受けるため、深部体温を上げないことが最優先です。2024年には日本救急医学会の分類が見直され、深部体温40℃以上で意識障害を伴う最重症の「Ⅳ度」が新設されました。少しでも重症が疑われる場合は、ためらわずに冷水浴などで「急速に体を冷やす」ことが救命に直結します。

3. 最大の予防策は「日々の体調管理」と「声かけ」

現場の対策と同じくらい見落とされがちなのが、従業員個人の健康管理です。

糖尿病や高血圧の持病がある方、利尿薬などを服用中の方は、通常よりも脱水リスクが高くなります。また、「睡眠不足」「前日の過度な飲酒」「朝食抜き」も熱中症の大きな引き金になります。

「今日は体調どう?」「ちゃんと朝ごはんは食べてきた?」 現場の管理職や同僚同士による、朝礼や作業開始前のちょっとした声かけと日々の体調チェックこそが、熱中症を防ぐ最大の予防策になります。

おわりに

熱中症は、正しい知識と事前の備え、そして周囲の目配りがあれば、必ず防ぐことができる労働災害です。

法改正への対応というコンプライアンスの側面はもちろんですが、何よりも「大切な従業員の命を守る」ために、今年も組織全体で万全の対策と声かけを行っていきましょう。

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