介護施設・福祉施設の産業医|50人以上の選任義務、夜勤職員の健診、腰痛・感染症・カスハラ対策で押さえるポイント

特別養護老人ホームやグループホーム、デイサービス、障害福祉サービス事業所などの介護・福祉施設は、夜勤があり、腰に負担のかかる介助が多く、利用者やご家族への対応で心の負担も大きくなりやすい職場です。職員が常時50人以上の施設では産業医の選任が義務になり、50人未満の施設でも健康診断や夜勤者の健康管理など、会社(法人)として行うべきことがあります。
この記事では、複数の介護・福祉施設で産業医を務めている筆者が、介護・福祉施設で押さえておきたい法令上の義務と、産業医に相談できることを整理します。
1. 産業医が必要になるのは「施設ごとに常時50人以上」
産業医の選任義務は、法人全体ではなく事業場(施設)ごとに判断します。同じ場所にある施設はまとめて1つの事業場として数えるのが原則で、離れた場所にある施設はそれぞれ別の事業場として数えます。パートや夜勤専従の職員も、常時使用していれば人数に含みます(詳しくはパート・アルバイトの人数の数え方)。
常時50人以上になった日から14日以内に産業医を選任し、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ選任報告を出します(産業医選任報告(選任届)の書き方と提出方法)。
| 施設の規模(常時使用する職員) | 主に必要なこと |
|---|---|
| 10人以上50人未満 | 衛生推進者の選任、定期健康診断と医師の意見聴取(衛生推進者とは) |
| 50人以上 | 産業医・衛生管理者の選任、衛生委員会の設置(毎月開催)、ストレスチェック(年1回)、定期健康診断結果報告 |
衛生管理者は、介護・福祉施設(「その他の業種」)であれば第二種衛生管理者免許の職員でも選任できます。ただし、病院や診療所(医療業)を同じ事業場に含む場合は第一種衛生管理者が必要になることがあるため、施設の構成を確認しておきましょう(衛生管理者と産業医の違い)。

2. 夜勤のある職員は6か月ごとの健康診断
夜勤(午後10時から午前5時までの深夜業)を含む業務に常時従事する職員は「特定業務従事者」にあたり、配置換えのときと6か月以内ごとに1回、定期健康診断を行う必要があります。週1回以上または月4回以上の深夜業がある職員が目安です(特定業務従事者の健康診断(深夜業は6か月ごと))。
夜勤明けの健診は結果に影響が出やすいため、日勤の日に受けられるよう勤務表と健診日を調整しておくと、受診漏れも防げます。健診のあとは、異常所見のある職員について医師の意見を聴き、夜勤の回数や連続勤務の配慮が必要かを判断します。
3. 腰痛予防は「人力で抱え上げない」が原則
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、介護・看護作業を腰痛が発生しやすい作業として取り上げています。指針では、リフトなどの福祉用具を積極的に使い、原則として人力による人の抱え上げは行わせないこととされています(職場における腰痛予防対策指針)。
- 移乗用リフト・スライディングボードなどの福祉用具を導入し、使い方の研修を行う
- 介助の負担が大きい利用者は、2人で対応するなど作業の手順を決めておく
- 腰に著しい負担のかかる作業に常時従事する職員には、配置前と6か月以内ごとに1回、腰痛の健康診断を行う(指針による)
- ベッドの高さを調整し、前かがみ・ひねりの姿勢を減らす
4. 感染症の流行期の出勤と職員の健康
インフルエンザや感染性胃腸炎などは、利用者に重症化しやすい方が多い介護・福祉施設では特に注意が必要です。職員が感染したときに「いつから出勤してよいか」は、法令(感染症法・病者の就業禁止)で決まっている場合と、施設のルールで決める場合があります(病者の就業禁止とは)。施設のルールで休ませる場合の賃金の扱いも含めて、流行期の前に就業規則や運用を確認しておきましょう。
5. メンタルヘルスとカスタマーハラスメント
介護・福祉の仕事は、利用者やご家族からの暴言・暴力、理不尽な要求に直面することがあり、職員の心の負担になりやすい仕事です。顧客などからの著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)は、精神障害の労災認定基準にも心理的負荷の出来事として加えられており、事業者には対策が求められるようになっています(カスタマーハラスメント対策の義務化)。
- ストレスチェックの集団分析で、負担の大きいユニットや職種を把握する
- 高ストレス者や長時間労働者には、医師による面接指導を行う(高ストレス者の面接指導)
- 利用者・家族からのハラスメントの相談窓口と、対応の手順(複数で対応する、記録を残すなど)を決めておく
- 人手不足で残業や連続勤務が続く職員の労働時間を把握し、月80時間を超えたら面接指導の申出を促す

6. 介護・福祉施設が産業医に相談できること
- 夜勤職員の健診結果にもとづく就業上の配慮(夜勤回数の調整など)
- 腰痛を訴える職員の就業判断と、介助方法・福祉用具の見直し
- メンタル不調による休職・復職の判断と、復職後の勤務の調整
- 利用者・家族からのハラスメントを受けた職員のケア
- 感染症の流行期の出勤ルールづくり
- 衛生委員会での議題の選び方と、職場巡視での助言
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うえまつ産業医事務所には、企業さまから「ハラスメント相談を受けたときの対応」というご相談がよく寄せられます。同じようなことでお困りでしたら、お気軽にご相談ください。
業種別の産業医のコラム
よくある質問
介護施設で産業医が必要になるのは何人からですか?
施設(事業場)ごとに、常時使用する職員が50人以上になったときです。パートや夜勤専従の職員も、常時使用していれば人数に含みます。50人以上になった日から14日以内に選任し、遅滞なく労働基準監督署へ報告します。
夜勤のある介護職員の健康診断は年1回でよいですか?
夜勤(午後10時から午前5時の深夜業)を含む業務に常時従事する職員は、配置換えのときと6か月以内ごとに1回、定期健康診断を行う必要があります。
介護施設の衛生管理者は第二種でもよいですか?
介護・福祉施設は「その他の業種」にあたるため、第二種衛生管理者免許の職員でも選任できます。病院や診療所を同じ事業場に含む場合は、第一種が必要になることがあります。
職員の腰痛対策で、法令や指針で求められていることは?
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」で、福祉用具を積極的に使い、原則として人力による人の抱え上げを行わせないこと、腰に著しい負担のかかる作業に常時従事する職員に配置前と6か月以内ごとに1回の腰痛の健康診断を行うことなどが示されています。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- あかるい職場応援団(厚生労働省 ハラスメント対策の総合情報サイト)
- 労働施策総合推進法(パワハラ防止の根拠法、e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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