有機溶剤健康診断とは|対象業務、6か月ごとの頻度と1年に緩和できる条件、尿中代謝物など物質ごとの項目、5年保存と報告を産業医が解説

「塗装や洗浄でシンナーを使っているが、有機溶剤健診は何をすればいい?」「尿の検査は毎回必要?」「1年に1回にできると聞いた」。製造業や印刷・塗装の会社の方からいただく質問です。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、有機溶剤健康診断の対象、6か月ごとの頻度と1年以内ごとに緩和できる条件、必須項目と物質ごとの項目(尿中代謝物など)、結果の記録・報告・意見聴取を、有機溶剤中毒予防規則(有機則)にもとづいて解説します。
結論:屋内で有機溶剤業務に常時従事する人に、6か月以内ごとに実施
- 対象は、屋内作業場やタンクの内部などで、有機溶剤業務に常時従事する労働者です。第3種有機溶剤はタンクなどの内部での業務に限られます(有機則第29条第1項)。
- 雇入れの際、配置替えの際と、その後6か月以内ごとに1回、医師による健康診断を行います(同条第2項)。
- 作業環境測定が3回連続で第1管理区分で、直近3回の健診で新たな異常所見がないなどの条件を満たせば、定期の健診を1年以内ごとに1回にできます(同条第6項)。
- 結果は個人票で5年間保存し、3か月以内に医師の意見を聴き、定期の健診は規模にかかわらず報告します(同規則第30条〜第30条の3)。

対象となる業務
有機溶剤は、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチル、メタノール、ノルマルヘキサンなど、塗料・接着剤・インキ・洗浄剤に含まれる溶剤です。有機則では毒性に応じて第1種・第2種・第3種に分けられています。
| 区分 | 健診の対象となる場所 |
|---|---|
| 第1種・第2種有機溶剤等 | 屋内作業場、タンク・船倉・坑の内部など |
| 第3種有機溶剤等 | タンク等の内部に限る |
消費する量が少なく、労働基準監督署長の認定を受けて有機則の適用が除外される場合などは対象外です。エチルベンゼン、スチレン、クロロホルムなどの一部の溶剤は「特別有機溶剤」として特定化学物質障害予防規則で管理し、健診もその規則にもとづいて行います。対象の判断には、作業環境測定の結果と、SDS(安全データシート)で確認した成分が役立ちます。
健診の項目
すべての対象者に行う必須項目
- 業務の経歴の調査
- 作業条件の簡易な調査
- 有機溶剤による健康障害の既往歴、自覚症状・他覚症状の既往歴の有無の検査、過去の尿中代謝物の検査結果や異常所見の有無の調査
- 有機溶剤による自覚症状・他覚症状と通常認められる症状の有無の検査(頭痛、めまい、手足のしびれ、皮膚や粘膜の異常など)
物質ごとに追加する項目
| 有機溶剤(重量の5%を超えて含む物を含む) | 追加する項目 |
|---|---|
| エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)など4物質 | 血色素量・赤血球数の検査 |
| オルト-ジクロルベンゼン、クレゾール、クロルベンゼン、1,2-ジクロルエチレン | 肝機能検査(AST・ALT・γ-GTP) |
| キシレン | 尿中のメチル馬尿酸の量 |
| N,N-ジメチルホルムアミド | 肝機能検査、尿中のN-メチルホルムアミドの量 |
| 1,1,1-トリクロルエタン | 尿中のトリクロル酢酸または総三塩化物の量 |
| トルエン | 尿中の馬尿酸の量 |
| 二硫化炭素 | 眼底検査 |
| ノルマルヘキサン | 尿中の2,5-ヘキサンジオンの量 |
尿中代謝物の検査は、前回の健診で受けた人について、医師が必要でないと認めるときは省略できます(同条第4項)。尿中代謝物の値は採尿のタイミングで変わるため、採尿の時期は健診機関と相談して決めておきましょう。
医師が必要と認める人に行う項目
作業条件の調査、貧血検査、肝機能検査、腎機能検査、神経学的検査の全部または一部を行います(同条第5項)。
1年以内ごとに緩和できる条件

次のすべてを満たす労働者は、定期の有機溶剤健康診断を1年以内ごとに1回にできます(有機則第29条第6項)。
- 作業場の作業環境測定の評価が、直近を含めて連続3回、第1管理区分であること
- 直近の健診のあと、作業方法を変えていないこと(軽微な変更を除く)
- 直近の連続した3回の健診で、新たに有機溶剤による異常所見があると認められなかったこと
入社したばかりで3回の健診を受けていない人は、6か月以内ごとのままです。緩和の考え方は特殊健康診断とは(対象業務・頻度・報告)でも解説しています。
結果の記録・意見聴取・報告
| やること | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 個人票の作成・保存 | 有機溶剤等健康診断個人票を作成し、5年間保存する | 有機則第30条 |
| 医師の意見聴取 | 健診の日から3か月以内に医師の意見を聴き、個人票に記載する。医師から業務の情報を求められたら速やかに提供する | 同規則第30条の2 |
| 労働基準監督署への報告 | 定期の健診を行ったら、遅滞なく電子申請で報告する(規模にかかわらず) | 同規則第30条の3 |
| 緊急診断 | 有機溶剤で著しく汚染されたり多量に吸い込んだりしたときは、速やかに医師の診察や処置を受けさせる | 同規則第30条の4 |
就業上の措置の決め方は健康診断後の医師の意見聴取(就業判定)、記録の保存期間の一覧は健康診断の記録の保存期間をご覧ください。
産業医が関わること
- 健診の結果、尿中代謝物の値、作業環境測定の管理区分をあわせて確認し、就業上の措置について意見を述べる
- 1年以内ごとへの緩和の条件を満たしているかを確認する
- 職場巡視で、局所排気装置の稼働、防毒マスクの使用と吸収缶の交換、容器のふたの管理を確認する(産業医の職場巡視)
- 妊娠中・産後の社員の配置について助言する(妊産婦の就業制限)
有機溶剤の掲示と区分の色分け表示など、職場で掲示が必要なものは掲示・周知が義務のもの一覧にまとめています。
うえまつ産業医事務所にご相談ください
うえまつ産業医事務所では、製造業・印刷・塗装などの事業場で、有機溶剤健康診断の結果と作業環境測定の結果の確認、就業上の措置の意見(3か月以内の意見聴取)、局所排気装置や保護具の巡視を、毎月定額の範囲で行います。
- 嘱託産業医:2か月に1回の訪問で月額30,000円、毎月訪問で月額50,000円(税別)
- 従業員50人未満の顧問契約:月額20,000円(税別)/1回だけのスポット相談:20,000円(税別)
- 毎月定額。職場巡視・衛生委員会への出席、臨時の相談・面談、交通費、意見書の作成、Webストレスチェック・健康管理Webに追加費用はかかりません
- 紹介会社を通さず、労働衛生コンサルタント・総合内科専門医の上松が継続して担当します(京都・大阪・滋賀・奈良へ訪問、全国Web面談)
事務所の概要は京都の産業医|うえまつ産業医事務所、料金とご契約の流れは報酬・ご契約の流れ、ご相談はお問い合わせから(翌営業日までに返信します)。
よくある質問
有機溶剤健康診断は何か月ごとですか?
雇入れの際、配置替えの際と、その後6か月以内ごとに1回です。作業環境測定が3回連続で第1管理区分で、直近3回の健診で新たな異常所見がないなどの条件を満たせば、1年以内ごとに1回にできます(有機溶剤中毒予防規則第29条)。
尿中代謝物の検査は毎回必要ですか?
トルエン、キシレンなど別表の有機溶剤を扱う人には必要です。ただし定期の健診では、前回受けた人について医師が必要でないと認めるときは省略できます(有機溶剤中毒予防規則第29条第4項)。
有機溶剤健康診断の結果は何年保存しますか?
有機溶剤等健康診断個人票を作成し、5年間保存します(有機溶剤中毒予防規則第30条)。
医師の意見はいつまでに聴きますか?
健康診断を行った日から3か月以内に聴き、個人票に記載します(有機溶剤中毒予防規則第30条の2)。
まとめ
有機溶剤健康診断は、屋内などで有機溶剤業務に常時従事する人に6か月以内ごとに行います。必須項目に加え、物質ごとに尿中代謝物などの検査を行い、条件を満たせば1年以内ごとに緩和できます。個人票の5年保存、3か月以内の意見聴取、規模を問わない報告を忘れずに行いましょう。
有機溶剤を小分けして保管するときの容器の表示は、小分け容器のラベル表示(無料のラベル作成ツール付き)で解説しています。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 有機溶剤中毒予防規則(e-Gov法令検索)
- 職場のあんぜんサイト(厚生労働省)
- 男女雇用機会均等法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
専門家紹介(経歴・資格) | researchmap(研究業績)
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