健康診断の結果は社内の誰が見てよい?上司・人事の閲覧範囲と健康情報の3つの区分を産業医が解説

「健康診断の結果を、上司が見てもいいのか」「人事部の誰まで共有してよいのか」。健診結果は社員の病気や体の状態がわかる、とても繊細な情報です。一方で、会社には健診結果にもとづいて就業上の措置をとる義務もあります。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、健診結果を社内の誰がどこまで見てよいのか、取扱規程の作り方とあわせて解説します。
結論:見てよい人と範囲を「取扱規程」で決め、上司には必要な配慮だけを伝える
- 会社は健診結果を、労働者の健康の確保に必要な範囲で収集・保管・使用しなければなりません(労働安全衛生法第104条)。
- 誰がどこまで扱うかは、事業場ごとに健康情報等の取扱規程で決めて社員に周知します(厚生労働省の指針)。
- 検査値や病名などの生データは、産業医・保健師と、健康管理の担当者に限るのが基本です。
- 上司に伝えるのは、「夜勤は当面控える」「残業は月20時間まで」など就業上の配慮の内容だけにとどめます。

健診結果を扱うときの法律のルール
| ルール | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 必要な範囲での取扱い | 健康の確保に必要な範囲で収集し、その目的の範囲で保管・使用する(本人の同意がある場合などは例外) | 労働安全衛生法第104条 |
| 適正な管理 | 心身の状態に関する情報を適正に管理するための措置を講じる | 同法第104条第2項 |
| 守秘義務 | 健康診断・面接指導・ストレスチェックの実施の事務に従事した者は、知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない | 同法第105条 |
| 記録の保存 | 健康診断個人票を作成し、5年間保存する | 労働安全衛生規則第51条 |
| 要配慮個人情報 | 病歴や健診結果は、個人情報保護法の「要配慮個人情報」として慎重な取扱いが必要 | 個人情報保護法 |
健康情報の3つの区分
厚生労働省の「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」は、健康情報を次の3つに分けて、取扱いの考え方を示しています。
| 区分 | 例 | 取扱い |
|---|---|---|
| ① 法令にもとづき事業者が直接取り扱う情報 | 健康診断を受けたかどうか、面接指導の申出の有無、健診後の就業上の措置についての医師の意見 | 目的や方法を社員に周知したうえで収集する |
| ② 法令にもとづき本人の同意なく収集できる情報 | 法定項目の健康診断の結果、面接指導の結果 | 取扱いの目的・方法を社員が十分に理解できるようにすることが望ましい |
| ③ 法令で事業者が直接扱うことが定められていない情報 | 法定外項目の健診結果(がん検診など)、保健指導や健康相談の結果 | 個人情報保護法にもとづき、本人の同意を得て取り扱う |
つまり、法定項目の健診結果は会社が収集できますが、「収集できる」ことと「社内の誰でも見てよい」ことは別です。見る人と範囲を規程で絞ることが求められています。なお、ストレスチェックの結果は、本人の同意がなければ会社に提供されません(同法第66条の10第2項)。
社内の誰が、どこまで見てよいか(例)

| 立場 | 見てよい範囲(例) |
|---|---|
| 産業医・保健師 | 健診結果の全体(検査値・所見・既往歴など) |
| 健康管理の担当者(人事・総務の限られた人) | 受診状況、有所見者の一覧、医師の意見(就業区分)、受診勧奨の状況。検査値の詳細は必要な範囲に限る |
| 上司・管理監督者 | 就業上の配慮の内容だけ(例:夜勤の制限、時間外労働の上限、運転業務の制限)。病名や検査値は伝えない |
| 経営者・役員 | 集計した数値(有所見率など)や、職場ごとの傾向。個人を特定できる情報は原則として不要 |
| 衛生委員会 | 個人が特定されない形に加工した集計結果 |
「上司が部下の体調を知っておいたほうが配慮しやすい」という声もありますが、上司が必要とするのは「どう働かせればよいか」の情報です。病名まで共有すると、本人が健診や相談で正直に話さなくなり、かえって健康管理がうまくいかなくなります。
誰がどこまで見るかは「取扱規程」で決める
上の表のような整理は、事業場ごとの健康情報の取扱規程で定め、衛生委員会(50人未満は社員の意見を聴く場)で審議したうえで社員に周知します。健康診断個人票の保存期間は5年です。規程に定める9つの事項と記載例、策定の5ステップは健康情報の取扱規程の作り方で詳しく解説しています。
よくある「やってはいけない」例
- 健診結果の一覧表を、部署のフォルダや共有ドライブに誰でも見られる状態で置く
- 健診結果をそのまま上司に転送し、配慮の判断を上司にまかせる
- 健診結果を人事評価や昇進の判断に使う
- 本人の同意なく、法定外のがん検診の結果などを会社が取得する
うえまつ産業医事務所の「健康管理Web」では、健診結果の取り込みから就業判定・受診勧奨、産業医面談の記録までを一つの画面で管理できます。嘱託産業医・顧問契約の企業は追加費用なしで利用できます。
うえまつ産業医事務所にご相談ください
当事務所によくあるご相談
うえまつ産業医事務所には、企業さまから「健康診断の結果を、上司にどこまで伝えてよいか」というご相談がよく寄せられます。同じようなことでお困りでしたら、お気軽にご相談ください。
健康情報の取扱規程の作成や、健診結果の共有範囲の決め方についても、産業医の立場から助言します。
- 嘱託産業医:2か月に1回の訪問で月額30,000円、毎月訪問で月額50,000円(税別)
- 従業員50人未満の顧問契約:月額20,000円(税別)/1回だけのスポット相談:20,000円(税別)
- 毎月定額。職場巡視・衛生委員会への出席、臨時の相談・面談、交通費、意見書の作成、Webストレスチェック・健康管理Webに追加費用はかかりません
- 紹介会社を通さず、労働衛生コンサルタント・総合内科専門医の上松が継続して担当します(京都・大阪・滋賀・奈良へ訪問、全国Web面談)
事務所の概要は京都の産業医|うえまつ産業医事務所、料金とご契約の流れは報酬・ご契約の流れ、ご相談はお問い合わせから(翌営業日までに返信します)。
よくある質問
健康診断の結果を上司が見てもよいですか?
検査値や病名などの詳しい結果を上司に見せる必要はありません。上司に伝えるのは、夜勤の制限や時間外労働の上限など、就業上の配慮の内容だけにとどめるのが原則です。誰がどこまで扱うかは、健康情報等の取扱規程で決めて周知します。
会社は健康診断の結果を本人の同意なく見られますか?
法定項目の健康診断の結果は、労働安全衛生法にもとづき本人の同意なく収集できます。ただし、健康の確保に必要な範囲で扱う必要があり(同法第104条)、法定外項目の結果は本人の同意が必要です。
健康診断の結果は何年保存しますか?
健康診断個人票を作成し、5年間保存します(労働安全衛生規則第51条)。
ストレスチェックの結果は会社が見られますか?
本人の同意がなければ、ストレスチェックの結果は会社に提供されません(労働安全衛生法第66条の10第2項)。同意を得て提供を受けた場合は、会社が記録を作成して5年間保存します。
まとめ
健診結果は、会社が健康確保のために使える一方で、扱う人と範囲を絞る必要がある情報です。取扱規程で「誰が・何を・何のために」扱うかを決め、上司には配慮の内容だけを伝える運用にしましょう。社員が安心して健診や相談を受けられることが、健康管理の土台になります。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 個人情報保護法(e-Gov法令検索)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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