従業員50人未満の会社のメンタルヘルス対策――4つのケアの分担、地域産業保健センターの使い方、休職・復職の備えを産業医が解説

「うちは小さな会社だから、産業医もいないし、メンタルヘルス対策なんて難しい」と感じていませんか。
働く人の心の健康を守ることは、規模の大小を問わず、すべての事業場に関わる大切なテーマです。小規模事業場ならではのポイントと活用できる仕組みを整理します。

4コマ漫画:30人の会社の社長に、メーくんが50人未満でも頼れる地域産業保健センターと、2028年4月からのストレスチェック義務化を説明

小規模事業場こそ「対策」が必要な理由

小規模な職場では、一人ひとりの業務量や責任が大きくなりやすく、人間関係も密になりがちです。そのぶん、ストレスやハラスメントなどのトラブルが表面化しやすい面があります。

一方で、産業医や保健師といった専門職がいないことが多く、メンタル不調者が出たときに「どう対応すればいいか分からない」という事業者も少なくありません。社会保険労務士に相談するケースもありますが、医学的な判断を伴う場面では限界もあります。

重要なのは、メンタル不調は本人の問題だけでなく、職場環境や事業者の姿勢にも左右される ということ。経営者の考え方が、そこで働く人の心の健康に直接影響します。不調が出にくい職場づくりは、一人ひとりが安心して働ける環境(心理的安全性)につながり、生産性の向上にも結びつきます。まさに 経営に直結する取り組み だといえます。

不調者が出たときの「分かれ道」

メンタル不調者が出たとき、事業者の対応は大きく2つに分かれます。

  • ①働き続けられるように支援する
  • ②退職せざるを得ない状況にする

このうち①を選べば、休職・復職支援や就業配慮など、さまざまな選択肢が開けます。しかし専門職のいない小規模事業場では、知らず知らずのうちに②になってしまい、貴重な人材を失う結果になりがちです。だからこそ、外部の力を上手に借りることが大切です。

頼れる味方「地域産業保健センター」

従業員50人未満の事業場が無料で使えるのが、地域産業保健センター(地さんぽ) です。次のような支援を受けられます。

  • 労働者の健康管理(メンタルヘルスを含む)に関する相談
  • 健康診断結果についての医師からの意見聴取
  • 長時間労働者への面接指導
  • ストレスチェックに係る高ストレス者への面接指導
  • 医師・保健師による個別訪問指導

保健師や企業の安全衛生担当の経験者がコーディネーターとして相談に応じ、必要に応じて産業保健総合支援センターや登録産業医につないでくれます。初回の活動は無料で利用できます。

企業が取り組むべきこと

  • 基本方針の表明と体制づくり:衛生推進者等を担当者に定め、メンタルヘルスに取り組む姿勢を示す
  • 「4つのケア」の実践:セルフケア・ラインケア・事業場内外資源によるケアを、できるところから着実に進める
  • 外部資源の活用:地域産業保健センター、産業保健総合支援センター、「こころの耳」などを使う
  • 相談しやすい風土づくり:経営者自身が、不調を責めず相談を歓迎する姿勢を示す
  • 2028年のストレスチェック義務化に備える:2028年4月から、50人未満の事業場でもストレスチェックが義務化されます。今から実施体制を考えておくと安心です

メンタルヘルス対策の基本「4つのケア」と、休職・復職の備え

ここからは厚生労働省の指針で示されている「4つのケア」を、小さな会社でどう分担するかという視点で見ていきます。

前回は、個人が「いつもと違う」に気づいて対応するコツをお話ししました。ただ、メンタルヘルスは個人の頑張りだけで支えきれるものではありません。今回は、組織として整えたい仕組みを取り上げます。

なぜ企業が取り組むのか

会社がメンタルヘルス対策を行うのは、「従業員が安心して力を発揮できる職場をつくるため」です。こころの健康が守られていれば、みんなが生き生きと働き、成果も上がります。逆に不調を放置すれば、ミスや休職が増え、離職による人材不足を招き、組織全体の力が落ちてしまいます。

経済産業省も、「心の健康」への投資が、生産性や従業員エンゲージメントの向上、企業価値の向上につながると整理しています。メンタルヘルスは、福利厚生ではなく経営そのものに関わるテーマなのです。

基本は「4つのケア」

厚生労働省は、効果的なメンタルヘルス対策として4つのケアを組み合わせることを推奨しています。

①セルフケアーー従業員が自分のストレスに気づき、対処できるようにすること。
②ラインケアーー管理監督者が職場環境を把握・改善し、部下の相談に応じること。
③事業場内産業保健スタッフによるケアーー産業医・保健師・人事労務が従業員や管理職を支え、施策を企画すること。
④事業場外資源によるケアーー外部EAPなど専門機関の支援を活用することです。
この4つがそろって、初めて職場全体を支える体制になります。

1コマ漫画:4つのケア(セルフケア・ラインケア・事業場内・事業場外)の図。小さな会社は外の資源も使ってよい

気づきを促す「ストレスチェック」

年1回のストレスチェックは、従業員自身がストレスに気づき、不調を未然に防ぐ(一次予防)ための制度です。集団分析を職場環境の改善につなげることもできます。

大きな変更点として、これまで50人以上の事業場に限られていた実施義務が、法改正により2028年4月から原則すべての事業場に拡大されます。小規模な職場も、今から準備を意識しておくと安心です。

相談窓口と、休職・復職の備え

「どう対応していいかわからない」ときに専門家へつなげるよう、社内(産業保健スタッフ)と社外(外部EAPなど)の相談窓口を整えておきましょう。利用にあたっては、相談内容や健康情報のプライバシーへの配慮が欠かせません。

あわせて重要なのが、休職・復職の仕組みです。安心して療養できる長期休業制度と、円滑に戻れる職場復帰支援を整えておきます。厚生労働省の「職場復帰支援の手引き」は、休業開始から復帰後のフォローまでを5つのステップで示し、試し出勤やリワーク(復職支援)プログラムの活用にも触れています。復職を本人任せにせず、産業医の意見をふまえて計画的に進めることが、再発防止の鍵になります。

できる対策から

小規模だからこそ、一人の不調が職場全体に与える影響は大きいものです。専門職がいなくても、外部の無料の支援を活用すれば、十分な対策は可能です。健康で働きやすい職場づくりを、一緒に進めていきましょう。

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うえまつ産業医事務所 所長
上松 弘典
産業医・労働衛生コンサルタント
総合内科専門医
博士(社会健康医学)

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うえまつ産業医事務所 所長・産業医 上松弘典
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