健診結果を健康保険組合に提供してよい?|特定健康診査・特定保健指導のしくみ、本人同意が不要な理由、会社の協力を産業医が解説

「健康保険組合から、社員の健康診断の結果を提供してほしいと言われた。本人の同意なしに渡していいの?」「特定保健指導の案内が来たが、会社は何をすればいい?」。人事・総務の方からいただく質問です。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、特定健康診査・特定保健指導のしくみ、会社の健診結果を保険者に提供するときのルール、保険者と協力して社員の健康づくりを進める方法を解説します。
結論:保険者から求められたら、会社は健診結果の写しを提供する。本人の同意は不要
- 健康保険組合や協会けんぽなどの保険者は、40歳以上の加入者に特定健康診査を行い、その結果にもとづいて特定保健指導を行います(高齢者の医療の確保に関する法律第20条・第24条)。
- 会社が労働安全衛生法にもとづく健康診断を行った場合、保険者は特定健康診査の全部または一部を行ったものとします(同法第21条)。
- 保険者から求められたら、会社は保存している健康診断の記録の写しを提供しなければなりません(同法第27条第3項・第4項)。
- 法令にもとづく提供なので、個人情報保護法上、本人の同意は不要です(個人情報の保護に関する法律第27条第1項第1号)。
特定健康診査・特定保健指導とは
| 会社の健康診断(労働安全衛生法) | 特定健康診査(高齢者医療確保法) | |
|---|---|---|
| 実施する人 | 事業者(会社) | 保険者(健康保険組合・協会けんぽなど) |
| 対象 | 常時使用する労働者(年齢を問わない) | 40歳以上の加入者(被扶養者を含む) |
| 目的 | 働く人の健康障害の防止、就業上の措置 | 生活習慣病の予防(メタボリックシンドロームに着目) |
| その後の対応 | 医師の意見聴取、就業上の措置、保健指導(努力義務) | 特定保健指導(動機付け支援・積極的支援) |
会社の定期健康診断には特定健康診査の項目が含まれているため、保険者は会社の健診結果を受け取れば、あらためて特定健康診査を行う必要がありません。同じ人に同じ検査を二重に行わないための仕組みです。
健診結果を保険者に提供するときのルール
- 根拠:保険者は、加入者を使用している(または使用していた)事業者に、労働安全衛生法などにもとづいて保存している健康診断の記録の写しの提供を求めることができ、求められた事業者は提供しなければなりません(高齢者医療確保法第27条第3項・第4項)。
- 本人の同意:法令にもとづく提供なので、本人の同意は不要です。ただし、社員には「健診結果を保険者に提供している」ことを、就業規則や健康情報の取扱規程、健診の案内などで周知しておくと安心です(健康情報の取扱規程の作り方)。
- 提供する範囲:特定健康診査に相当する項目が中心です。聴力や胸部エックス線、ストレスチェックの結果など、目的に関係のない情報まで渡す必要はありません。ストレスチェックの結果は、本人の同意なく第三者に提供できません。
- 委託:会社が健康診断の実施を保険者に委託し、費用を支払う方法もあります(同法第21条第2項)。
特定保健指導と会社の協力
特定保健指導は保険者が行いますが、対象者が働く時間帯に面談を受けられるか、会社の協力が受けやすさを左右します。
- 保健指導の面談を勤務時間中に受けられるようにする、会議室を貸す
- 健診の結果説明会や社内報で、特定保健指導の案内をする
- 保険者のデータ分析(年代別の血圧・血糖の傾向など)を衛生委員会で共有し、職場の健康づくりに活かす(コラボヘルス)
- 要再検査・要精密検査の人への受診勧奨は、会社と産業医が中心に行う(「要再検査」に社員が行かないときの対応)
会社の保健指導との違い
労働安全衛生法では、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要がある社員に、医師または保健師による保健指導を行うよう努めることとされています(労働安全衛生法第66条の7)。産業医の保健指導は「働き方」も含めて助言する点が、特定保健指導との違いです。異常の所見がある社員については、医師の意見を聴いて就業上の措置を決めることが会社の義務です(健診後の医師の意見聴取)。
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よくある質問
健康保険組合に社員の健診結果を渡してよいですか?
保険者から求められた場合、会社は保存している健康診断の記録の写しを提供しなければなりません(高齢者の医療の確保に関する法律第27条)。法令にもとづく提供なので、本人の同意は不要です。
特定健康診査と会社の健康診断は別に受ける必要がありますか?
会社が労働安全衛生法にもとづく健康診断を行えば、保険者は特定健康診査の全部または一部を行ったものとします(同法第21条)。同じ検査を二重に受ける必要はありません。
特定保健指導は誰が行いますか?
健康保険組合や協会けんぽなどの保険者が行います。会社は、勤務時間中に面談を受けられるようにするなど、受けやすい環境づくりに協力します。
ストレスチェックの結果も保険者に提供しますか?
ストレスチェックの結果は特定健康診査の項目ではなく、本人の同意なく第三者に提供することはできません。
まとめ
保険者から求められたら、会社は健康診断の記録の写しを提供します。本人の同意は不要ですが、提供していることを社員に周知し、必要な範囲に限って提供しましょう。特定保健指導への協力や保険者のデータの活用で、会社と保険者が一緒に社員の健康づくりを進められます。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 個人情報保護法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
専門家紹介(経歴・資格) | researchmap(研究業績)
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