労基署の監査(調査)で「産業医が選任されていない」と指摘されたら|是正勧告への対応、選任報告と是正報告の手順、確認される書類、罰則

労働基準監督署の監査・調査(臨検監督)で「産業医が選任されていない」と指摘され、是正勧告書を渡された――。急いで産業医を探している会社の方に向けて、この記事では期日までに何をすればよいかを順番に整理します。
産業医の未選任は、労働安全衛生法第13条の違反です。是正勧告は行政指導で、すぐに罰則が科されるものではありませんが、期日までに是正して報告することが求められます。

労働基準監督署の「監査」とは:臨検監督の種類と、産業医について確認される書類
会社の方が「労基署の監査」「立ち入り調査」と呼んでいるものは、正式には臨検監督といいます。労働基準監督官が事業場を訪れ、労働基準法や労働安全衛生法が守られているかを、書類と現場で確認します。主に次の種類があります。
- 定期監督:監督署の計画にもとづいて行われるもの
- 申告監督:労働者からの申告(相談)をきっかけに行われるもの
- 災害時監督:一定の労働災害が起きたときに行われるもの
- 再監督:是正勧告の後、是正されたかを確かめるもの
産業医・健康管理について、臨検監督で確認されやすい書類は次のとおりです。常時50人以上の事業場では、日ごろから揃えておくと安心です。
- 産業医・衛生管理者の選任報告(控え)と、産業医との契約書
- 衛生委員会の議事録(3年間保存)と、産業医の職場巡視の記録
- 健康診断個人票(5年間保存)と、定期健康診断結果報告書の控え
- 健康診断の結果についての医師の意見の記録
- 長時間労働者の面接指導の記録(5年間保存)と、労働時間の把握の記録
- ストレスチェックの実施状況の報告(控え)
このうち、産業医が選任されていない(または選任報告が出ていない)ことは、最も指摘されやすい点の一つです。指摘されたときの対応を、次から順番に説明します。
1. まず是正勧告書で確認すること
- 違反とされた条文:産業医の未選任は「労働安全衛生法第13条第1項」
- 是正期日:いつまでに是正し、報告する必要があるか
- ほかの指摘:衛生管理者の未選任(第12条)、衛生委員会の未設置(第18条)、ストレスチェックや健康診断の未実施なども、あわせて指摘されていることが多い
- 指導票:法違反ではないものの改善を求められた事項がないか
是正勧告を放置したり、虚偽の報告をしたりすると、送検されることがあります。産業医を選任しなかった場合の罰則は50万円以下の罰金です(労働安全衛生法第120条)。期日に間に合いそうにない場合は、期日の前に監督署へ連絡し、進み具合と見通しを伝えて相談しましょう。

2. 期日から逆算して産業医を探す
産業医の探し方には、地域の医師会に相談する、紹介会社に依頼する、産業医事務所と直接契約する、などの方法があります(京都で産業医を探す方法/産業医の選び方)。急いでいるときほど、次の点を最初に確認すると、契約までの時間を短くできます。
- 事業場の所在地、業種、常時使用する労働者の数(パート・アルバイトを含む)
- 有害業務(特殊健康診断が必要な業務)や深夜業があるか
- 訪問の頻度(毎月か、条件を満たして2か月に1回にできるか)(産業医の隔月訪問の条件と費用)
- 契約の開始日と、選任報告に必要な書類をいつもらえるか
契約書では、業務の範囲、訪問の頻度、追加費用の有無、解約の条件を確認しておきましょう(産業医の契約書で確認すべき12項目)。
3. 選任したら選任報告を出す
産業医を選任したら、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ「産業医選任報告」(様式第3号)を提出します。2025年1月から、産業医の選任報告は電子申請が原則になりました。報告には、産業医の要件を満たすことを証明する書面(日本医師会の認定産業医の認定証や、労働衛生コンサルタント登録証などの写し)を添付します(産業医選任報告(選任届)の書き方と提出方法)。
4. 是正報告書を提出する
選任報告を出したら、是正勧告書で示された期日までに是正報告書を提出します。是正した内容(産業医を選任した日、産業医の氏名など)を記載し、選任報告の控えなど是正したことがわかる書類を添えるのが一般的です。様式や添付書類は監督署の指示に従ってください。
5. あわせて整えておきたいこと
産業医を選任しただけでは、50人以上の事業場の義務はそろいません。次の点も、指摘を受けたこの機会に確認しておきましょう。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衛生管理者 | 常時50人以上で選任し、選任報告を提出(衛生管理者と産業医の違い) |
| 衛生委員会 | 毎月1回以上開催し、議事録を3年間保存(衛生委員会の議題例・12か月の年間カレンダー) |
| 健康診断 | 年1回の定期健診、異常所見者についての医師の意見聴取、定期健康診断結果報告(定期健康診断結果報告の出し方) |
| ストレスチェック | 年1回実施し、高ストレス者の面接指導と結果の報告 |
| 長時間労働 | 労働時間の状況を把握し、月80時間超で申出があれば医師の面接指導(長時間労働者の面接指導の流れ) |
| 職場巡視 | 産業医が毎月1回(条件を満たせば2か月に1回)巡視 |
選任後の最初の数か月で何をするかは、産業医を選任したら会社がやることにまとめています。今後、別の事業場が50人を超えたときや、産業医が退任したときにも、14日以内に選任できるよう、事業場ごとの人数を定期的に確認しておくと安心です。
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産業医の探し方・契約のコラム
よくある質問
労基署から産業医の未選任で是正勧告を受けました。罰金になりますか?
是正勧告は行政指導で、すぐに罰則が科されるものではありません。期日までに産業医を選任し、是正報告書を提出すれば、通常はそれで完了します。放置したり虚偽の報告をしたりすると送検されることがあり、産業医を選任しなかった場合の罰則は50万円以下の罰金です。
是正期日までに産業医が見つからない場合はどうすればよいですか?
期日の前に監督署へ連絡し、産業医を探している状況と見通しを伝えて相談しましょう。何もしないまま期日を過ぎることは避けてください。
産業医選任報告は紙で出せますか?
2025年1月から、産業医の選任報告は電子申請が原則になりました。e-Govの電子申請などで提出します。
是正報告書には何を書けばよいですか?
是正した内容(産業医を選任した日、産業医の氏名など)を記載し、選任報告の控えなど是正したことがわかる書類を添えるのが一般的です。様式や添付書類は監督署の指示に従ってください。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- こころの耳(厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生法施行令(e-Gov法令検索)
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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