産業医の勧告とは|会社の尊重義務、勧告前の意見聴取、記録の3年保存と衛生委員会への報告、産業医の権限と情報提供を産業医が解説

「産業医から勧告を受けたら、必ず従わないといけない?」「勧告を受けたあと、会社は何をすればいい?」「産業医にどんな情報を渡す義務がある?」。産業医を選任している会社の人事・総務の方からいただく質問です。この記事では、京都で嘱託産業医をしている筆者が、労働安全衛生法第13条にもとづく産業医の勧告について、勧告の効力、勧告を受けた会社がすること、記録と衛生委員会への報告、産業医の権限と情報提供を解説します。

結論:会社は勧告を尊重し、記録を3年保存して衛生委員会に報告する
- 産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができ、事業者は勧告を尊重しなければなりません(労働安全衛生法第13条第5項)。
- 産業医は、勧告をする前に、あらかじめ事業者の意見を求めます(労働安全衛生規則第14条の3第1項)。
- 勧告を受けた事業者は、勧告の内容と講じた措置(講じない場合はその旨と理由)を記録して3年間保存し、遅滞なく衛生委員会に報告します(同法第13条第6項、同規則第14条の3)。
- 勧告をしたことを理由に、産業医を解任するなどの不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(同規則第14条第4項)。
勧告の効力:「尊重」の意味
勧告は、会社に一定の行為を強制する命令ではありませんが、事業者には勧告を尊重する義務があります。勧告の内容を検討し、実施できるものは実施し、実施しない場合はその理由を記録して衛生委員会に報告する必要があります。勧告を無視して健康障害が起きた場合は、安全配慮義務の面からも会社の責任が問われやすくなります(安全配慮義務とは)。
勧告の例としては、長時間労働が続く部署の業務量の見直し、面接指導の結果にもとづく就業上の措置の実施、作業環境の改善などがあります。実際には、勧告の前に職場巡視や衛生委員会、面談後の意見書で改善を提案し、それでも改善されないときに勧告に進むのが一般的です(産業医の意見書とは)。
勧告を受けた会社がすること

- 勧告の内容を確認し、実施する措置を検討する(勧告前に産業医から意見を求められた段階で、事情を説明しておく)
- 勧告の内容と、講じた措置または講じようとする措置の内容(措置を講じない場合はその旨と理由)を記録し、3年間保存する(労働安全衛生規則第14条の3第2項)
- 勧告を受けた後、遅滞なく、勧告の内容と措置の内容を衛生委員会(安全衛生委員会)に報告する(同条第3項・第4項)
- 措置の実施状況を、衛生委員会や産業医と一緒に確認する
衛生委員会での報告と審議の進め方は、衛生委員会とはで解説しています。
産業医の権限と会社からの情報提供
事業者は、産業医に職務を行うための権限を与えなければならず、その権限には次のものが含まれます(労働安全衛生規則第14条の4)。
- 事業者または総括安全衛生管理者に対して意見を述べること
- 職務の実施に必要な情報を労働者から収集すること
- 労働者の健康を確保するため緊急の必要がある場合に、労働者に対して必要な措置をとるべきことを指示すること
また、事業者は産業医に、次の情報を提供しなければなりません(労働安全衛生法第13条第4項、同規則第14条の2)。
| 提供する情報 | 時期の目安 |
|---|---|
| 健康診断や面接指導、ストレスチェック後の面接指導の結果にもとづいて講じた措置または講じようとする措置の内容(講じない場合はその旨と理由) | 医師の意見を聴いた後、遅滞なく |
| 時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の氏名と、その超えた時間 | 算定した後、速やかに |
| その他、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要と認める労働者の業務に関する情報 | 産業医から求められた後、速やかに |
月80時間を超えた人の把握の方法は労働時間の状況の把握義務で解説しています。
産業医の独立性と不利益取扱いの禁止
産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識にもとづいて、誠実にその職務を行わなければなりません(労働安全衛生法第13条第3項)。事業者は、産業医が勧告や指導・助言をしたことを理由に、解任その他の不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働安全衛生規則第14条第4項)。産業医が辞任したときや解任したときは、遅滞なく、その旨と理由を衛生委員会に報告しなければなりません(労働安全衛生規則第13条第4項、産業医を変更・交代したいときの手順)。
産業医が関わること
- 勧告の前に、職場巡視、衛生委員会、面談後の意見書で、改善の提案を伝える
- 勧告をするときは、あらかじめ会社の意見を聴き、実施できる措置を一緒に考える
- 勧告後の措置の実施状況を、衛生委員会で確認する
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よくある質問
産業医の勧告に会社は必ず従わないといけませんか?
勧告は命令ではありませんが、事業者は勧告を尊重しなければなりません(労働安全衛生法第13条第5項)。実施しない場合は、その旨と理由を記録して3年間保存し、衛生委員会に報告します。
産業医の勧告を受けたら何をしますか?
勧告の内容と講じた措置(講じない場合はその旨と理由)を記録して3年間保存し、遅滞なく衛生委員会に報告します(労働安全衛生規則第14条の3)。
産業医にはどんな情報を提供する義務がありますか?
健康診断や面接指導の後に講じた措置の内容、時間外・休日労働が月80時間を超えた労働者の氏名と時間、産業医が必要と認める業務に関する情報です(労働安全衛生規則第14条の2)。
勧告をした産業医を解任してもいいですか?
勧告をしたことを理由に、産業医を解任するなどの不利益な取扱いをしないようにしなければなりません(労働安全衛生規則第14条第4項)。
まとめ
産業医の勧告は、事業者が尊重しなければならないもので、勧告の内容と講じた措置は記録して3年間保存し、衛生委員会に報告します。勧告に至る前に、職場巡視や衛生委員会、意見書を通じて産業医と課題を共有し、早めに改善することが大切です。
参考:公的機関の資料
この記事の内容は、次の法令・公的機関の資料にもとづいています。最新の情報は各リンク先でご確認ください。
この記事を書いた人
上松 弘典(うえまつ ひろのり)
うえまつ産業医事務所 所長。産業医・労働衛生コンサルタント・総合内科専門医・博士(社会健康医学)・MPH。京都市中京区(四条烏丸)を拠点に、京都・大阪・滋賀・奈良の事業場で嘱託産業医として訪問しています。九州大学医学部卒業後、内科・呼吸器内科の臨床に従事し、東京大学大学院(MPH)、京都大学大学院(博士・社会健康医学)を修了。一般企業のほか病院・クリニックの産業医も務め、メンタル不調・休職・復職の対応、健康診断後の就業判定、製造業の特殊健康診断、ストレスチェックを中心に、企業の健康管理を支援しています。
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