主治医の「復職可」だけで復帰させていいのか――産業医が復職判定で確認していること

「主治医から『復職可』の診断書が出たので、来週から戻してよいですか」——人事の方から、いちばん多くいただくご相談の一つです。産業医として、診断書は大切な判断材料として受け止めます。ただ、それだけで復帰の日を決めることはおすすめしていません。この記事では、その理由と、産業医が復職判定で実際に確認していることをお伝えします。

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主治医の「復職可」は、何を意味しているのか

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年策定、平成24年改訂)は、この点をはっきり書いています。主治医の判断は、日常生活でどこまで回復したかをもとにしていることが多く、職場で求められる業務の遂行能力まで回復したという判断とは限らない、という趣旨です。

主治医は診察室で本人を診ています。一方で、その方の職場の業務内容、通勤の負担、繁忙期の残業、上司との関係までは、多くの場合ご存じありません。ですから「日常生活は送れる」と「この職場のこの業務に戻れる」の間には、どうしても距離が生じます。その距離を埋めるのが、職場を知っている産業医の役割です。

現場から
復職面談時に、再休職リスクが高いなと思うことをざっとあげると、日中の眠気倦怠感はじめ他身体症状、活動量や意欲の低さ、話す言葉が精神論のみ、被害的発言が多い、休職期間満了日に近い。これらが複数ある状態で、現場に戻すと、多くの場合、最初の数週間でつまずきます。

産業医が復職判定で確認していること

手引きが示す判断の目安をもとに、面談では次の点を一つずつ確認します。

確認項目 具体的に見ていること
生活リズム 決まった時刻に起きられるか、昼間に強い眠気がないか(生活記録表で2〜4週間分を確認)
通勤 通勤時間帯に一人で安全に通えるか(実際に職場の近くまで行ってみる練習を勧めることも)
集中力・疲労 読書や作業を一定時間続けられるか、疲れが翌日まで残らないか
業務との照合 元の業務に必要な作業ができそうか、どこに配慮が必要か
本人の意欲 復帰したい気持ちが本人から出ているか(経済的な焦りだけで急いでいないか)

このうち一つでも不十分なら「まだ早い」と判断するわけではありません。不十分な点があれば、復帰日を少し後ろにずらすのか、短時間勤務や業務の軽減で補えるのかを、本人・会社と一緒に考えます。

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主治医と産業医の意見が違うとき

主治医は「可」、産業医は「もう少し準備を」と意見が分かれることもあります。どちらかが間違っているというより、見ている範囲が違うことがほとんどです。そこで産業医から、本人の同意を得たうえで主治医に情報提供を依頼し、職場の業務内容を伝えて意見をいただきます。手紙一通で見解がそろうことも珍しくありません。

なお、復職の可否を最終的に決めるのは会社です。産業医の意見も主治医の意見も、会社が判断するための材料です。だからこそ、判断の根拠を記録に残しておくことが、本人のためにも会社のためにもなります。

「元の仕事に戻れない=復職不可」ではない

職種を限定せずに雇っている社員の場合、元の業務が難しくても、すぐに「復職不可」とはいえません。最高裁の片山組事件判決(平成10年4月9日)は、職種や業務内容を特定せずに雇用された労働者について、現実的に配置できる他の業務で働くことができ、本人もそれを申し出ているなら、労務の提供として認められる余地があると判断しています。

復職判定は、本人の回復だけでなく、会社として「どの業務なら任せられるか」を考える場でもあります。ここは産業医と人事が一緒に検討すべきところです。

よくあるご質問

Q. 産業医がいない50人未満の会社は、どうすればよいですか?

A. 地域産業保健センター(さんぽセンター)で医師の意見を聴くことができます。判断が難しい事例では、スポットで産業医に相談する方法もあります。

Q. 試し出勤(リハビリ出勤)は必要ですか?

A. 必須ではありませんが、復帰前に職場で状態を確かめられる有効な方法です。手引きでも模擬出勤・通勤訓練・試し出勤が紹介されています。導入する場合は、その間の賃金や、けがをした場合の扱いを事前に取り決めておく必要があります。

Q. 診断書の内容に疑問があるとき、会社から主治医に問い合わせてよいですか?

A. 本人の同意が前提です。同意を得たうえで、産業医を通じて情報提供を依頼するのが、本人との信頼関係を保ちやすい方法です。

まとめ

主治医の「復職可」は、復帰に向けた大切なスタートラインです。そこから「この職場で、この業務に、無理なく戻れるか」を確かめるのが復職判定です。急いで戻して再休職になれば、本人にとっても会社にとっても負担が大きくなります。判断に迷うときは、職場を知る産業医にご相談ください。

うえまつ産業医事務所では、京都・大阪・奈良・滋賀の事業所を中心に、復職判定や就業上の配慮のご相談をお受けしています。顧問契約のない会社からのスポットのご相談も可能です。お問い合わせはこちら


参考資料
[1] 厚生労働省・独立行政法人労働者健康安全機構「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定、平成21年3月・平成24年7月改訂)
[2] 最高裁判所第一小法廷 平成10年4月9日判決(片山組事件)

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うえまつ産業医事務所 所長
上松 弘典
産業医・労働衛生コンサルタント
総合内科専門医
博士(社会健康医学)

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