加齢の変化と労災リスク
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皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。
定年延長や再雇用制度の普及により、60歳以上の雇用者数はこの10年で約1.5倍に増加しました。内閣府の調査でも「60歳を過ぎても働きたい」と考える人が8割を超えるなど、高年齢労働者の豊富な経験とスキルは、これからの職場に欠かせない重要な戦力となっています。
一方で、企業として急務となっているのが「シニア世代が安全に働ける環境づくり」です。今回は、2026年4月に施行された法改正のポイントと、高年齢労働者が抱える心身の変化についてお話しします。
1. 2026年4月施行、高年齢労働者の労災防止が「努力義務」へ
こうした社会の変化を受け、労働安全衛生法が改正されました。2026年4月より、高年齢労働者(おおむね60歳以上)の心身の特性に配慮した労働災害防止措置が、すべての事業者の「努力義務」として明記されました。
これまでも「エイジフレンドリーガイドライン」として国から推奨されていましたが、これが明確な法的根拠を持つ指針へと格上げされた形になります。企業はこれまで以上に、働く人の年齢に応じた安全配慮を行うことが求められる時代になったのです。
2. 労災の「3人に1人」が高年齢層という現実と、見えない変化
なぜ、今ここまで強い対策が求められているのでしょうか。 厚生労働省が公表した状況によると、雇用者全体に占める60歳以上の割合は約2割(19.1%)です。しかし、休業4日以上の「労働災害」に占める割合を見ると、なんと「30.0%(約3人に1人)」にまで跳ね上がります。
特に深刻なのが「転倒・転落」です。20代と比較した労働災害の発生率は、60代後半で男性が2.0倍、女性が4.9倍にのぼります。さらに災害の型別に見ると、「墜落・転落」は男性で約4倍、「転倒」は女性でなんと約15倍にも達します。女性の場合、更年期以降の骨密度低下(骨粗しょう症)が重なり、転倒が骨折などの重大なケガに直結しやすい点に特に注意が必要です。
この背景には、加齢に伴う「本人が自覚しにくい身体機能の変化」があります。
- 感覚器の変化: 老眼や動体視力の低下で小さな文字が見えづらくなる。警告音(高音)に気づきにくくなる。
- 運動機能の変化: 下肢の筋力やバランス感覚が低下し、つまずきやすくなる。
- 認知機能の変化: 情報処理スピードが変わり、マルチタスク(同時並行作業)でケアレスミスが起きやすくなる。
これらは決して「本人の不注意」ではなく、周囲も気づきにくい生理的な変化であることを、管理職や同僚が理解しておくことが非常に重要です。
3. 休職が長引く?「治療と仕事の両立」も組織の課題に
高年齢労働者は、血圧や血糖値、心電図の異常といった生活習慣病をはじめ、何らかの持病(疾患)を抱えながら働く人が増えます。 また、業務による疾病で最も多い「災害性腰痛(ぎっくり腰など)」は60代後半で痛みを訴える人が最も多くなるほか、体温調節機能の低下による熱中症、脳血管疾患や心疾患のリスクも高まります。
さらに人事労務の観点で知っておくべきは、「シニア世代は一度ケガや病気で休むと回復に時間がかかり、休職が長引きやすい」という傾向があることです。だからこそ、病気の悪化を未然に防ぎ、治療と仕事を無理なく両立できる支援の仕組みづくりが、企業のリスク管理としてより一層重要になっています。
おわりに
「エイジフレンドリー(高年齢者に優しい)」な職場環境を整えることは、特別な誰かを優遇することではありません。 段差をなくす、照明を明るくするといった改善は、結果として若手社員や障害を持つ方など「すべての世代が安全で働きやすい職場」を作ること(ユニバーサルデザイン)に繋がります。
まずは、自社の過去の労災記録や「ヒヤリハット」の傾向を見直すことから始めてみませんか。 次回は、このエイジフレンドリーな職場を実現するための「具体的な環境改善と使える制度」について詳しくご紹介します。
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