「つまずき」が重大事故に【高年齢労働者の守り方】

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

今回は、近年急速に注目を集めている【エイジフレンドリー(高年齢労働者に配慮した安全で健康的な職場づくり)】についてお話しします。

「何もない平らなオフィスの床でつまずき、骨折して長期休業を余儀なくされる」。 実はこれこそが、いま日本の多くの職場で起きている労働災害のリアルな実態です。

1. 労災の3割を占める「60歳以上」の現実

現在、65歳以上の就業者は914万人(2023年実績)と20年連続で増加しており、雇用者全体に占める60歳以上の割合は2割弱となっています。法律でも「70歳までの就業機会の確保」が推進されており、働く意欲のあるシニア世代は今後も増え続けます。

しかし、労働災害(休業4日以上のケガ)のデータを見ると、全体の「約3割」を60歳以上の労働者が占めています。労働者全体の割合が2割弱であることを考えると、これは非常に高い数字です。

加齢に伴う筋力や視力、バランス感覚の低下は、本人が自覚している以上に「転倒・転落」のリスクを高めます。特に女性の場合、骨密度の低下により、60歳以上の転倒による骨折リスクは20代の約15倍に跳ね上がるという報告もあります。ひとたびケガをすると重症化・長期化しやすいため、企業としてのリスク管理が急務となっています。

2. 2026年4月施行、安全衛生対策が「努力義務」へ

こうした背景から、2026年4月施行の改正労働安全衛生法により、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理が、すべての事業者の「努力義務」となりました。

これまで任意で示されていた「エイジフレンドリーガイドライン」が、法的根拠を持つ「高年齢者の労働災害防止のための指針」へと格上げされた形です。指針では、企業が取り組むべき対策として以下の5つの柱が示されています。

  1. 安全衛生管理体制の確立
  2. 職場環境の改善(ハード面の対策)
  3. 健康・体力の状況把握
  4. 状況に応じた対応(ソフト面の対策)
  5. 安全衛生教育

中小企業向けには、設備の改善にかかる費用を国が支援する「エイジフレンドリー補助金」も用意されています。しかし、こうした対策を「知っている」事業所はまだ2割程度にとどまっており、実際の取り組みはこれからという企業が大半です。だからこそ、この努力義務化のタイミングで、最初の一歩を踏み出すことが重要です。

3. 「働きやすい職場」へ

では、具体的にどのような対策が必要なのでしょうか。決して特別で大掛かりなものばかりではありません。

① 設備・環境の見直し

「ちょっとした段差をなくす」「階段に手すりを設置する」「作業場の照明を明るくする」「滑りにくい床材に変更する」。こうした物理的な環境改善は、高年齢者だけでなく、若手社員や障害を持つ方など、すべての従業員にとって安全で働きやすい職場(ユニバーサルデザイン)に繋がります。

② 働き方と職場文化の見直し

体力に合わせた「こまめな休憩の導入」や「シフトの工夫」といった作業管理に加え、見落とされがちなのが「職場文化」の醸成です。 例えば、役職定年を機に生じる「年下の上司と年長の部下」という関係性において、お互いの経験を尊重し合える心理的安全性の高いコミュニケーションがあるか。こうした相互理解と尊重に基づくカルチャーづくりも、立派なエイジフレンドリー対策の一つです。

おわりに

「エイジフレンドリー」とは、単なる高齢者への特別扱い(優遇)ではありません。年齢にかかわらず、誰もが安全に、持てる能力を最大限に発揮できる職場を作っていくという、組織の土台づくりそのものです。

「うちのベテラン社員は元気だから、まだ大丈夫」と先送りするのではなく、法改正が施行された今こそ、自社の職場環境やルールを見直すきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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