職場の飲酒問題 「減酒」の考え方と早期発見のコツ

皆さんこんにちは。うえまつ産業医事務所です。

今回は、産業保健の現場でもご相談の多い「職場の飲酒問題」と、「減酒・断酒」の考え方についてお話しします。

人事労務や衛生管理者の皆様は、職場で次のようなご相談を受けたことはないでしょうか。 「最近、遅刻や突発的な欠勤が増えている社員がいる」 「飲み会の翌日に体調不良で休みがちだ」 「健康診断で肝機能異常を指摘された社員の対応に悩んでいる」

飲酒の問題は、職場の安全や生産性に大きく関わる一方で、プライベートな側面も強いため、企業としてどこまで介入すべきか迷うことも少なくありません。

1. アルコール依存症は「一般内科」に隠れている

アルコール依存症が疑われる方の多くは、ご自身から最初から精神科や依存症専門の医療機関を受診するわけではありません。

実際には、肝機能異常、高血圧、睡眠障害、動悸、胃腸症状といった身体の不調をきっかけに、「一般内科」を受診するケースが非常に多いとされています。しかし、そこから依存症の専門医療に繋がる人は非常に少なく、適切な治療が開始されるまでに長い年月がかかってしまうことが医療現場での大きな課題となっています。

だからこそ、勤怠の乱れや健康診断の結果から「早期に発見する」という職場の役割が極めて重要になります。

2. 「断酒」だけが選択肢ではない?広がる「減酒」のアプローチ

以前は、アルコール問題に対する治療や指導は「まず断酒(お酒を完全にやめること)」という考え方が中心でした。

しかし近年では、治療や支援の入り口として「減酒(飲酒量を減らすこと)」というアプローチも広く取り入れられるようになっています。 「お酒を完全にやめる気はない」という方に、最初から高いハードルである断酒だけを求めると、支援そのものから離脱してしまう恐れがあるためです。まずは飲酒量をコントロールし、健康被害や職場への悪影響を減らすことも、有効なアプローチとされています。

3. 職場で活用できるスクリーニングと具体的な対策

職場で飲酒問題が疑われた際、どのように状況を把握し、対策を進めればよいのでしょうか。

① スクリーニングツール「AUDIT」の活用

飲酒の状況を客観的に把握するために、WHO(世界保健機関)が作成した「AUDIT(オーディット)」という世界的なチェックツールがよく用いられます。「飲酒量」「飲酒頻度」「飲酒による問題」などを評価するもので、健康教育や保健指導の場面でも簡単に活用できます。 AUDITが高得点で、自力で減酒ができない場合は依存症を疑います。特に15点以上の場合は、依存症の可能性を念頭に置き、専門医療機関への受診を検討・推奨します。

AUDITはこちらから実施できます↓
AUDIT(アルコール依存症スクリーニングテスト)

② 危険な飲酒レベルには「飲酒日記」が有効

依存症には至っていないものの、飲酒量が多い段階であれば、「飲酒日記」をつけるだけでも飲酒量が減少することがあります。「飲んだ量を記録する」「休肝日を決める」といった取り組みです。 ここで重要なのは、完璧を求めすぎないことです。「先週より1日休肝日が増えた」「ビールを1本減らせた」といった小さな変化を評価することが、継続に繋がります。

③ 「断酒」と専門医療が必要なケース

一方で、減酒だけでは不十分なケースもあります。AUDITが高得点であることに加え、「お酒が切れると手が震える(離脱症状がある)」「重篤な肝障害などの身体疾患がある」「飲酒により家庭や仕事に深刻な影響が出ている」といった場合は、断酒を前提とした専門的な治療が必要となります。

衛生管理者や人事・労務に求められる役割

衛生管理者や人事担当者に求められるのは、診断や治療を行うことではありません。

  1. 勤怠や健康診断から「飲酒問題に気づく(見つける)
  2. 本人が相談しやすい環境を作り、産業医に「つなぐ
  3. 必要に応じて専門医療への橋渡しを「支える

アルコール問題はご本人の健康だけでなく、労働災害、飲酒運転、生産性低下、メンタルヘルス不調にも直結する重大なリスクです。「もしかしたら、お酒の問題かもしれない」と気づけること自体が、職場の安全配慮の第一歩になります。

飲酒問題への対応は「断酒か、減酒か」の二択ではありません。担当者がひとりで抱え込まず、産業医や保健師と連携しながら、従業員の健康と職場の安全を守るためのサポート体制を整えていきましょう。